第15話

エピローグ
342
2018/11/05 14:41
ある練習後の自主練のこと。


「せんぱーい」

「ん?」


軽くジャンプし、シュートを打とうとした瞬間。


「このシュート入ったらキスしていいですか?」


思わず力んでしまい、ボールが力強くボードに当たって跳ね返ってきた。
そのまま横を通り後ろへ跳ねていくボールを拾う余裕はなく、私の全身に動揺が走る。


「なっ、だっ」

「付き合って一ヶ月っすよ?そろそろしたいんすけど」

「……ええと……」


上手い言い訳が思いつかない。
ちら、と片桐くんを見れば、懇願の眼差しで私を見つめてきている。
顔を逸らしても追いかけて突き刺さってくる視線。……折れるしかなかった。


「……分かった」

「よっしゃ!絶対決める!!」


片桐くんは軽く飛び跳ねて喜んで、ドリブルを一つ挟みシュートの構えを取った。


「ノータッチで決めますから。見ててくださいね」


流し目で微笑んでくる片桐くん。
ドキッ、と胸が鳴った。

片桐くんはゴールと向かい合った状態で、高くボールを放った。
綺麗な軌道を描きながら飛んでいったボールは、そのままリングへ一直線――。


「あっ」


ガシャンッ、とボールが大きくリングに弾かれた。
ボールは数回体育館の床をバウンドし、やがてコロコロと転がって止まった。
静かな空気の中、片桐くんが勢いよく私を見る。


「い、今のなし!次、次が本番です!」

「……『ノータッチで決めますから』」


ぼそ、とさっきの片桐くんの発言を繰り返すと、片桐くんが真っ赤になって大声を上げた。


「あああ忘れてください!もっかい!もっかいやらせてください!!」

「ダメ。チャンスは一回だったんだよ。もう終わり」

「そんなああぁ……」


肩を落としたかと思えば、その流れで膝、手も床について全身でがっかりする片桐くん。
そんな彼を見ていると罪悪感が湧いてきて。


「……残念賞ってことで、ほっぺたになら、キスしてもいいよ」

「!」


ぱああっと片桐くんの表情が見るからに嬉しそうに輝く。
そこまで喜ぶとは。

片桐くんが起き上がり、少し高い位置から私を見つめた。
ほのかに赤い顔が近付いてきて、頬に優しいキスをされる。


「先輩、大好きです!」

「……ありがと」

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