翌日の目覚めは、少し遅かった。
私は昔から思い通りの時間に起きることができるため、目覚まし時計は保険でかけているのだが、今日はそれで目覚めたのだ。
別に、昨日寝る前に片桐くんのこと考えてたからとかじゃないけど……。
いつもより少し遅い時間に家を出て通学路を行き、高校前の信号を待っていると。
「あれっ、先輩?」
不意に聞こえたその声に、ドキッとした。
声の主が隣に並んできて顔を覗き込んでくる。
「やっぱり、あなた先輩だ!おはようございます!」
「……おはよう。びっくりした」
「オレもっす!先輩と朝出会うなんて初めてっすね。オレいつもこの時間なんすよ」
そうか、片桐くんはいつもこの時間なのか……。明日からちゃんと時間通りに家出よう。
「先輩はいつもどうなんすか?」
「私は普段はもう少し早いかな」
「そうなんすね!じゃあもうちょっと早い時間に来れば先輩と一緒に学校行けるってことっすね」
「……そうなるね」
気まずくなったら嫌だし別に早く来ないでいいよ、と思ったが、もちろん口には出さない。
そうしたら、片桐くんは意外にも「まぁオレ朝弱いんで無理なんすけどねー」と笑顔で言い、別の話を始めてきた。
……気遣ってくれた……のかな?でも私、そういうこと言ってないのに……。
それから教室前で別れるまで、彼と他愛のない話をした。
楽しくて、気まずく思うことは一度もなくて。片桐くんはただ明るい良い子なだけじゃないんだって、深く実感した。
授業中、気付けば片桐くんのことを考えている時があった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!