「そうなのか?」
「……えーと、その…………先日やった模試で、分からない所があったので、今度教えてもらっていいですか?」
頑張って捻り出した理由は、そんなものだった。
馬鹿か私、それを頼むのは普通二年部の先生にだろ。一年部の谷先生に頼むなんて不自然すぎる。
「おう、いいが……ん?頼みに来ただけか?問題用紙は?」
「……問題は今日は家にありまして」
「ほーん。持ってきた時に俺んとこ来れば良かったのにな。二度手間じゃねえか」
「……あはは」
全くもってその通りで。
片桐くんの視線が痛くなってきたし、そろそろ去りたいところだけど……。
その時、5時間目開始5分前のチャイムが鳴った。
「あっ、しまった次移動だった!すみません先生、失礼します!片桐くんもごめん!またね!」
できるだけ自然を装い生物準備室から駆け出る。
教室へ走って戻る間、心臓のバクバクという音がずっと響いていた。
わざとらしくなかったかな、ちゃんと演技できてたかな。次が移動っていうのも嘘なんだけど気付かれてないよね?
不安はあったが、わざわざ確認するわけにもいかない。気にしていても仕方がないと、私はそれを脳内から追い出した。
――本人に気付かれていたとも知らず。
「……あー、好きだなぁ……」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。