第16話

No.16
620
2021/09/22 08:00













“ 俺に ”




私にだって、憧れる恋愛はあった。
でも、結局それは自分と家柄のせいで、
叶うことはなかった。




そして私は、一昨日初めて会った人と、
結婚する。
よりによって、相手は現役のヤクザ
私は財閥の元跡継ぎ令嬢
真逆の世界で、お互い違う運命を背負って。









剛典「……俺は、仕事と組のために結婚する」
剛典「ある一定期間だけ。」
『仕事のために、…』






私は、何かのために自分の全てを賭けられる?
きっと答えはNoだろう。
それくらい弱っちい人間だもの。












『何かに全てを賭けられる貴方、素敵ですね』
剛典「……」
『私にはそんな力、無いですから。』








私にその勇気、きっとこの先湧いて来ない
なんて奴だ、なんて思ってたけど
尊敬出来るところ、見つけられてよかった
尊敬し合えてこそ、いい関係が築けると思ってるから。
父と母が、そんな関係で上手くやって来て
それがずっと憧れだった。私の。







剛典「……着いたぞ、」
『ありがとうございます』





自室のある本殿のカーポートに横付けしてくれた
外からでも見える、使用人たちが並ぶ光景。
全てを察した岩田は、少し面倒くさそうに
先に降りて、私の手を掴んでエスコートしてくれた
繋がる手が熱くて、心が溶かされる感覚。








〈お嬢様、お帰りなさいませ〉
剛典「西園寺あなたの婚約者の岩田剛典です」
剛典「以後、お見知り置きを。」
〈承知致しました。〉
『父上と、母上は今都合はつきそう?』
〈社長は、現在律子名誉会長との会食で、
家を空けておられます。〉
〈奥様は、本殿4階のご自室にて休養されております〉
『今、伺ってもよろしくて?』
〈少々お待ちくださいませ、お調べ致します〉
『ありがとう』






使用人たちに怪しまれないように、
私よりも幾分も高い身長の岩田に、
極力くっついておく。
ほんのり香るBVLGARIの香水、私のミスディオール。
岩田も、私の腰に腕をまわして引き寄せてくれる
さすが、その辺の空気は読めるのね。
青龍会、ただものではないわ。
女の扱いには、相当たるテクニックをお持ちで。






『お母さん、あなたです。帰りました。』
母「まぁ、お帰りなさい、」
『……主人も一緒です。』
剛典「初めまして、あなたさんの婚約者の、
岩田剛典と申します。」
剛典「婚姻届の証人欄にご記名頂きたく、
伺わせて頂きました。」
母「ご丁寧に有難うございます。」
母「娘をどうか宜しくお願い致します。」





母は深く頭を下げたあと、
届に、署名してくれた。




母「どうかご無事で。
幸せになるのよ、あなた。母さんは味方よ。」
『……有難うございます。』
剛典「そしたらあなた、次はうちの会長の元へ。」
『…かしこまりました。』








何も幸せじゃない。
……消えてしまいたい。



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