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第1話

1ページ目 出会い
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2018/06/02 06:46
もうすぐ我が上倉(カミクラ)高校の文化祭だ。私の学校は文化祭の時に実行委員会が設置される。各クラスで四人ずつ出され、ステージ班、チケット班、パトロール班、放送班に分かれて仕事を行う。私はステージ班だ。
「遠花(トオカ)!ちょっと手伝ってー!」
「はーい!」
よいしょと荷物を置き、同じステージ班の香織(カオリ)のもとへ急いだ。はいはいはいとステージを設営して一息着いたとき、
「久留水 遠花(クルミ トオカ)」
いきなり名前を呼ばれた。やけに低い声だなと思いながらも
「はい!」
と大きく返事をして振り替えると、目の前はジャージだった。
「ん!?」
ジャージには“早坂”の文字が刻まれていた。ジャージのラインが赤色だから多分ひとつ上の3年生だ。
「おい。」
と呼ばれ、見上げたその先にはキラキラした三次元のNARUMIが居た。あ、NARUMIと言うのはリズムゲームに出てくる私の大好きなキャラだ。もうキラキラしてて私はいつもNARUMIに励まされている。
 ほわぁ~と見とれていると
「あの、いい?」
と声があり私は正気を取り戻した。やばいやばいと思いながら、顔を両手でパチンと叩いてから上を向き、顔を見た。さすがに三年生ということもあってオーラというか威圧感があった。
「す、すみません・・・。あの、用件はなんですか?」
「それ。」
「え?」
先輩の指す方向を見ると備品が入った段ボール箱が3つ置かれていた。
「3階まで運べる?」
「ひ、ひとりでですか!?」
「うん。」
そういった先輩は凄くいじわるそうな顔をしていた。私はなんなんだ!と思いながらも段ボール箱を持ちやすいように積み始めた。
 その時、後ろからふわっと私を包むようにして両手が出てきた。そうして段ボール箱を掴んだ。先輩だ。
「ふふっごめん。冗談。」
そう言って笑った先輩は、まるで太陽だった。私の心臓はこれまでに無いくらいにドクンドクンと脈打っていた。恥ずかしさとなぜ私にこんなことをしたのかという気持ちから私は一言言い返したくなった。
「先輩!お、お言葉ですが初対面の後輩にそんなことしてると勘違いしますからやめてください。」
「?初対面だっけ俺たち?」
先輩はとぼけた顔をした。私は額から汗が流れてくるのを感じてタオルで拭った。え、初対面じゃない?てことはどこかで会ってる?どこ?早坂・・・早坂??
「すみません。心当たりがありません。」
えー、と先輩は困った顔をした。んーと上を見ながら先輩は話し出した。
「きみ、いつかの夏祭りのときに熱中症だかで倒れてたよね。その時助けたのが俺。」
自信満々に先輩は自分を指差した。なにやら得意げな顔だ。でも、すみません先輩・・・
「全然覚えてません。」
えー、と何分か前にあった顔がまた出た。私の心に嘘ついてでも知ってるって言っておいた方が良かったかな、と罪悪感が今さら現れてくる。
「じゃあ、これからよろしくってことで!俺、早坂 海弦(ハヤサカ ミツル)。」
差し出された手を私はじっと見つめた。この人は何考えてんだか・・・。でもいい人なのかなという期待から、私も手を取り返し、
「久留水 遠香(クルミ トオカ)です!よろしくお願いします。」
ちょっと嬉しかった。先輩は笑顔でまたよろしくと返して、行こうと段ボール箱を持った。

それが私と早坂先輩との出会いの1ページだ。

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