第21話

第21話 猜疑
16
2026/01/28 09:34 更新
少し遡り....まだUSBメモリ&レポートの件で悩みに悩みまくっていた頃。
杉原 要すぎはら かなめ
その犯人、私、知ってるかも。

杉原要はその場で立ち止まり、霞城と楠見の二人を見つめた。
もちろん、二人も顔を見合わせ杉原の次の言葉を待っていた。
楠見 集くすみ しゅう
知ってる...って
霞城 胡桃かじょう くるみ
どういうことですか?
杉原 要すぎはら かなめ
根拠も何もなくて、ただの私の考えだけなんだけど。
一人だけ、この人かなって思ってる。
霞城 胡桃かじょう くるみ
.....

話し始めて考えることが疎かになっていたんだと思う。
私は、言いたいとか言いたくないとか、そんな思いがなんにもなくて、ただ単純に、事実を確かめて理由を聞きたいと思ってる。


楠見 集くすみ しゅう
でも、レポートって杉原が管理してたんだろ?
本当に盗まれたのかよ。
霞城 胡桃かじょう くるみ
そう...ですね。
他の生徒や先生が使って、そのまま杉原が知らない場所に管理されてるとか...
楠見 集くすみ しゅう
あっ、それありそう!

また、二人は杉原を見つめる。
杉原 要すぎはら かなめ
いや、それは...無いと思う。
杉原 要すぎはら かなめ
1年生の仮入部で見せるために、最後にレポートに触れたの、私だったから。

いつの間にか仮入部の部室に辿り着いていた。
鍵は空いてなかったから、そのまま立ち話をすることになった。
楠見 集くすみ しゅう
でもさ〜、1年生も可哀想だよな。
霞城 胡桃かじょう くるみ
どうしてですか?
楠見 集くすみ しゅう
だって、仮入部なのに一酸化炭素っていう危険な代物のレポートが無くなったんだぜ?
不安になる生徒もいるだろ。
楠見 集くすみ しゅう
それを杉原のせいにする奴なんか出てきたら、それこそ俺が殴ってやりたいが....
霞城 胡桃かじょう くるみ
そもそも、杉原が責任を感じることなんてありませんよ。
無くなるなんてこと、管理していたとしても予測できませんからね。
楠見 集くすみ しゅう
あっ、悪い。
それで、犯人知ってるって?
霞城 胡桃かじょう くるみ
...すみません。

そんな二人の会話を聞いていたら、ちょっと安心してしまった。
管理していた私の責任は、消そうとしても消えるものでは無いというのに....
良い友達で、優しい人達だ。
杉原 要すぎはら かなめ
ごめん。やっぱり私の勘違いかも。
杉原 要すぎはら かなめ
二人の会話聞いて、ちょっと安心した。
自分のした事は、ちゃんと責任取らなきゃって焦ってたから。
杉原 要すぎはら かなめ
ほんと、ありがと。
楠見 集くすみ しゅう
気にすんなって。
霞城 胡桃かじょう くるみ
はい。....気にしないでください。
霞城 胡桃かじょう くるみ
鍵は職員室ですよね。
私、取ってきます。

そして、スマホをいじりながら淡々と、その声を聞いてる人物がいた。

青鷺 思優あおさぎ しゆん
.....。
3人の会話を忘れてしまうような日数が経ち、やっと没頭する時間が取れた青鷺は、少し悩んで考えていた。

たった数十秒の会話でも、把握できるものがあった。
職員室前で霞城先輩と対面したとき、杉原要にするか霞城胡桃にするか迷った。
どちらも同じくらい、全校生徒の信頼を得ていたからだ。

もう一度、その音声を再生する。
聞き終わったら違う音声、その次でさえ違う会話。

今度は、協力関係を結ぶことになった杉原要の考え方に注目して...
直接話したその直感と、言葉遣いと、楽しめるかという事実から、今でも俺は杉原要を選択するだろう。
圧倒的な違いは、真面目さだ。

杉原要は、少しユーモア溢れるようだ。
言葉を使わずとも察してくれるその鋭さは、俺が楽に過ごせるから。
霞城胡桃には悪いけど、レポートの件を塵のように背負ってもらおう。
誰に指摘されるわけでも、自分で自覚するにも至らず、雰囲気的にそうさせる。
USBメモリを投げる判断は、正しかったというわけだ。



そして現在....

青鷺は、杉原要のポケットから回収した盗聴器を落として踏んで。
腫れた腕を隠し薬を作り出す。

作り出すから、グレーライン。

杉原要の人生を壊すほど、俺は暇でもないし興味もない。
利用する。
とことん利用し、情は捨てよう。
この期間の会話の特徴、関わっている友人関係、知っておいて損はない。
いざというとき、使える判断材料だから。
青鷺 思優あおさぎ しゆん
「....もう、時間かな。」

最後にもう一度...粉状の薬を飲み込んだ。

痛覚を使い無理やり起きる、とても原始的なやり方だが、薬学の知識は最低限度、効率重視で生きている。

荷物をまとめて俺しか知らないルートを辿る。
鍵が壊れたこの裏口なら、教師に声をかけられない。





爽上 春馬さわじょう はるま
「.......」
爽上 春馬さわじょう はるま
「......イラッ。」

貧乏揺すりしてリビングで待つ。
夕飯は爽上先生が作り終わり、本当にただ待っているだけ。

ゴミ箱から睡眠薬の袋を取り出しては確認し、また捨てる。
時刻は午後9時...
教師よりも生徒の方が帰りが遅いなんてこと、本当なら有り得ない。

そう....本当じゃないから、有り得てしまうのだ....

迎えに行こうと立ち上がったその瞬間、玄関の開く音がする。
青鷺 思優あおさぎ しゆん
....ただいま...帰りましたぁ..
爽上 春馬さわじょう はるま
思優ッ!!!
青鷺 思優あおさぎ しゆん
.....

急ぎ足で自室に向かう。
その足音に慌てて、その担任は追いかける。

どうやら、爽上先生の方が圧倒的に早かったみたいだ。
青鷺 思優あおさぎ しゆん
....ッ!!
青鷺の前に立ちはだかる。
爽上 春馬さわじょう はるま
何か、言いたいことがあれば聞くが?
青鷺 思優あおさぎ しゆん
....
爽上 春馬さわじょう はるま
それじゃあ、リビングに戻ろうか?
ゆっくり、話したいことがある。

無表情のまま、観念したようにリビングに戻っていく。
視線も表情も歩き方すら、いつもの思優と変わらない。

でも、帰ってきたときの声色だけは、聞いたことがないくらい隠せてなんていなかった。

リビングに戻ると同時に、青鷺はクルッと方向転換してまたドアに向かう
だが、どちらも諦めが悪いようだ。
爽上 春馬さわじょう はるま
.....あ?
青鷺 思優あおさぎ しゆん
....いえ。

思優が座り込むと同時に俺も目の前の席に座り込む。

いつも以上に視線は合わないが、雰囲気や仕草などの発言以外、普段の思優と変わらない。
本当に流石と褒めたいけど、今日はお説教と進ませてもらう。
爽上 春馬さわじょう はるま
体調、悪いよな?
青鷺 思優あおさぎ しゆん
.....
爽上 春馬さわじょう はるま
悪いよねッ!?
青鷺 思優あおさぎ しゆん
.....はぃ。
爽上 春馬さわじょう はるま
それを隠そうとして、昨日の夕飯に睡眠薬を混ぜ込んだ?
爽上 春馬さわじょう はるま
あぁ、先に言っておくけど、嘘の答え求めてないから。
爽上 春馬さわじょう はるま
さっさと言ってね?
なんで昨日、俺に睡眠薬をもったのかな?
ん...?w
青鷺 思優あおさぎ しゆん
......
爽上 春馬さわじょう はるま
今日の朝ももういないし。
ベットにシワがある様子もないから寝てないし。

あの時みたいに、黙り込む。
俺が思優の感情を読み取ることなんて出来なくて、話すことが弱点であること、つまり、そういうことなのだろうか。

だが、黙っているということは考えているということでもある。
思考そのものが武器になってる思優にとって、この時間は有利に働く。
今日こそは、ちゃんと聞きたい。
てか、もう俺は俺のやり方を強行する。
爽上 春馬さわじょう はるま
早く夕飯食べて風呂入って。
リビングで待ってるから、逃げるなよ。

プリ小説オーディオドラマ