《テオくんside》
頭上でiPhoneが振動しているのに気がつき
数時間の眠りから、俺は目を覚ます。
マネージャーだ。
今誰かと会話を交わすのは
気分が乗らなかったため、LINEを飛ばした。
…また事務所か。
送られてきた文字を見て思う。
じんたんが亡くなってから仕事が格段に増えた。
" スカイピース " としてではなく、
" テオくん " としての。
俺がそれに対して渋い反応をすると
" テオくんがやるべき仕事だからさ! "
事務所の人は決まってそう言う。
なんだか
じんたんがいなかったかのようになっていて
すごく、悔しかった。
俺の自慢の相方なのに。
俺の自慢の恋人なのに。
" スカイピース " にしか出来ないこと、あるのに。
じんたん、なんでこんな世界に
俺を置いていったんだよ、なあ。
今更僻んでも仕方ないのだが。
やっべえ、俺、
ついに幻聴まで起こし始めたか、
" じんたんロス " 。
聞こえるはず、ないのに。
でも、安心するんだよな、この声。
ほら、今だってこの声を聞くと
勝手に涙が俺の頬を伝っていくよ。
難しいこと言うね、
そんなお願い、流石に聞けないや。
俺の脳が勝手にじんたんの声を構成する。
せめて、現れてほしいのに、
なんで声なんだよ、
俺にじんたんの声が聞こえてるんだから
じんたんにも俺の声が聞こえてるって
期待くらいしてもいいでしょ?
…返事、来ないかあ、
まさか。
嘘はつかないでよ、じんたん。
期待しちゃうじゃん。
いつの間にか閉じていた目を開ければ
そこにはもしかしたらいるんじゃないかって
変な期待、絶対に叶わない期待。
ゆっくりと瞼を持ち上げると
気づかないあいだに強く目を閉じていたのか
前がぼやけてよく見えなかった。
…誰?
俺の前に立っているのは、
だんだん視界が鮮明になっていく。
見た事のあるシルエット。
というより、俺が大好きだったシルエット。
そこにいたのは、紛れもなくじんたんだった。
ちょっと照れくさそうに笑う姿。
じんたんを見つめて
何も声に出せない俺に気づいたのか
そんな事を言う。
久しぶりに見るその姿に
俺の弱った心はみるみる縮んでいって
ついに萎んで、大量の想いになって溢れてきた。
ああ、変わっていない。
普段泣かない俺が泣くと
じんたんはあたふたする。
本物だ。
邪魔な涙を拭って
じんたんのもとへ駆け寄る。
大きく両手を広げて
じんたんを包み込もうとする。
やっと届いた、と思ったのに
俺の腕の中には何もなく
じんたんはただ後ろにいるばかりだった。
仕方ないね、と言うじんたんは
少し哀しそうに微笑みながら手を伸ばす。
慎重にその手を掴もうとするのに
その手には触れられなかった。
まるで違う世界にいるかのように
俺が触っているのはただの空気だった。
1番聞きたかったこと。
こういうのって
大体は何か後悔があって成仏できないパターン。
じんたんは俺に全部話してくれた。
じんたんがもう息をしなくなったあと
どんな世界に行って
どんな人に会って
どんな事を言われて
どういう風に、何の目的で戻ってきたか。
そして、どうやったら生まれ変われるのか。
弱々しい声で言うじんたんを
精一杯手助けしようと思った。
できる限り、協力しようと思った。
俺も、またスカイピースやりたいから。
正直まだ今起こっていることを
すべては理解していない。
もしかしたら俺
自分の意思を忘れちゃうかもしれない、
じんたんがそう言う。
大体の人はそのリスクを恐れて
生まれ変わるチャンスを捨ててしまうらしい。
じんたんはそのリスクを背負って
俺のために戻ってきてくれたんだから。
そんな根拠の無い言葉をかける。
そこからだった。
俺の、
俺らだけの、
異色な世界の始まりは。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。