《テオくんside》
今日も事務所の前で笑顔を作って
" 偽りのテオくん " を演じながら入る。
最近のルーティン。
でも今日はひとつ違うことがあって。
小さめの声で挨拶をし
キョロキョロしながら入ってくるじんたん。
俺に見えているから
他の人にもきっと見えてるんだろうと思ったけど
そういう訳でもないらしい。
事務所をうろついているじんたんを小声で呼ぶと
マネージャーさんに
一人でなに言ってるの?と笑われた。
どうやらじんたんのことは見えないんだろう。
まだ打ち合わせまでに時間があったため
個室のように区切られている部屋でパソコンを開く。
SDカードを差し込むと
俺が一人でスカイピースの挨拶をしようとする
動画のサムネが液晶に映った。
それを興味深げに見つめるじんたん。
誰にも聞こえないような声で
じんたんだけに囁く。
ごめんね、としょんぼりした顔をされた。
意気込んだような声でそう言った。
後ろから聞こえる驚いたような声。
もちだ。
そりゃあんだけ大きい声でじんたんが喋れば、
…え?
もちの後ろからひょこっと出てきたフレントが
もちさんどうしたの、とこちらを見る。
そこにいるみんな、
いや、" じんたんが見える人 " は
混乱して、目を合わせながら固まった。
" その人達 " と身を縮めて経緯を話す。
まだ信じられていない人も
理解が早い人もそれぞれ。
他にもじんたんが見える人が少しだけいた。
ねおちゃん、ピンキー、かすちゃん。
他にも少し。
" 見える人 " と " 見えない人 " がいるのは
偶然のようで、必然のようにも思えた。
じんたんのことが " 見える人 " は
じんたんを尊敬している人に限られていたから。
そして大切にしている人。
これはきっと
じんたんが生まれ変わるために神様が選んだ人達。
じんたんが " 条件 " を果たすために
心からじんたんを愛せる人。
いらない人間は排除されたという訳だ。
残酷なのかなんなのか
俺にはもうそれすら分からない。
けど、
俺が絶対、
じんたんを生まれ変わらせるから。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。