【じん目線】
付き合ってる設定
ある夜、コンビニからスカイハウスに帰ると
テオくんが泣いていた。
パンパンに目が腫れ上がっている。
数十分走って大学病院についた。
テオくんの知り合いが医者らしい
テオくんはずっと激しくむせび泣いている。
でも、まったく訳が分からないままだ。
怖くない、と言えば嘘になる。
だが治らないからといって
テオくんの命がすぐに消えてしまうのは…
何かできることがあるかも知れない。
お医者さんは息を飲んでいった。
透明人間…
え…
テオくんが死ぬことはない。でも…
テオくんの姿は見えない…。
呆然としながらもテオくんと病院を出た。
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俺達はまず、日常の些細なことでも記録する。
サブちゃんをいっぱい撮って、
テオくんのいる姿を全部をたくさん残す。
食べる姿、歯を磨く姿、、、
見飽きたようなものなのに改めて見ると
新鮮で、愛おしかった。
最初は恥ずかしがっていたテオくんも
次第に慣れ、
そのうちふざけて俺を撮ることも増えた。
そういいながら編集をする俺を撮るテオくんに向かって笑いながら
ここはカット。
しかし、そんな穏やかな日々を、
病魔はゆっくりと、
だが着実に蝕んでいった。
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初夏の日差し爽やかな、ある日曜日
いつも通り撮影をして片付けをしていたら
いつの間にかテオくんの姿が消えていた。
コンビニ行ったのかな
きっとすぐ帰ってくるかー
______3時間たった。
不安になってテオくんに電話した。
その着信音はリビングで聞こえた。
すぐ近くで
そして俺はそこで初めて、
リビングのソファーに座って
スマホを握りしめて泣いている
テオくんを見つけた。
テオくんはずっとそこにいたんだ。
ただ…俺に見えなかっただけで。
こんなことがだんだん増えた。
長いときは丸3日も透明なまま。
そのうち、ルールができた。
テオくんの姿を見かけないと思ったら、
すぐに電話をかけること。
透明になってると気づいたら、
すぐにメモに書いて貼る。
透明な間は家から出ない。
慣れとは恐ろしいもので、半年が経てば
テオくんが透明になっても動揺しなくなった。
もちろん悲しいが、
テオくんが一番悲しいはず。
透明な間は誰にも認知してもらえない。
その絶望は到底俺には計り知れない…
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1年たった。
テオくんはまだ完全に消えていない。
だが、もうほとんど俺にテオくんの姿を見ることはできない。
最後に見たのはいつだっけ?
目安と言われていた1年は超えた。
いつ消えてもおかしくない。
あの手の温もりが、
「じんたん」と呼ぶ声が、
あの笑顔が、
俺の愛するテオくんのすべてが
この世から消えてしまうことが、
たまらなく悲しくて怖い。
___病院についた。
しばらく、この一年のことなどを話した後、
と言われた。
え、テオくん今透明なのに?
なんか特殊な意思伝達方法なんかあるのかな…
診察室のドアが閉まる瞬間、
俺を見ていたお医者さんの目が
悲しそうに歪んだことがやけにはっきりと
俺の目に焼き付いた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!