第52話

勝者
2,697
2021/01/23 09:32
競技終了後



〜観客席(第7)〜

紅丸「仄日か」

紺炉「さながら浅草の神から皇国の神への宣戦布告だな…」

紅丸「悪くねェだろ」

紺炉「まあな、あれじゃもう戦闘不能は確定だが相手の命の方が心配だ…」

紅丸「あ?あいつを汚ェ目で見たんだ、死んだって当然だろ」

紺炉「ここは皇国だから困るんですよ、消したいならせめて浅草でやってください」



〜観客席(第8)〜

桜備「あのとんでもない壊し方が原国式の鎮魂なのか?それに太陽神を拒んだ浅草が受け入れた神か…本当に神の裁きとでもいうようなとんでもない火力だったな」

火縄「心配する必要はありませんでしたね」

桜備「ああ、やり方はアレだが仲間のために怒れる心…第8の結成がもう少し早ければ第8に勧誘したんだが、残念だ」

火縄「もう少し早くても無駄だと思いますよ」

桜備「何でだ?」

火縄「あの少女は第7結成と同時に中隊長になりましたがそこに至るまでの一切の記録が存在してないんですよ」

桜備「どういうことだ??」

火縄「何でも10年以上前から死んだと思われていたのに最近になって生きていることが発覚したとか、それ以上のことは何も」

桜備「そりゃ不思議だな…」

火縄「一つだけ分かっているのは皇国出身ということですね」

桜備「それは尚のことわけがわからないな…」





競技が終了してとりあえず紅丸と紺炉の待つ観客席へ向かう


『ただいま、2人ともちゃんと見ててくれた?』

紺炉「ちゃんと見てたが、ありゃ否が応でも目に入るぞ」

紅丸「浅草からも見えたんじゃねェか?」

紺炉「ところで手加減はしたんだよな…?」

『防火服丸焦げで地面と仲良しになってたけど殺してはいないから…』

紺炉「なら構わねェが…とりあえずお疲れさん」

紅丸「…よく頑張ったな」


紅丸が軽く頭を撫でる


『うん!それじゃあ帰ろう』

紺炉「この後まだ何かあんじゃねェのか?」

紅丸「べつに構わねェだろ」

『べつに表彰とかされたかったわけじゃないからさ、それに紅丸が仕事ほっぽり出して出てきちゃったんだから早く帰らなきゃみんな困るでしょ』

紅丸「どうせあなたの一人勝ちだったって知れば全員仕事ほっぽり出して酒盛り始めンだ、俺一人仕事したとこで変わらねェよ」

紺炉「仕事してください、若…」

『しょうがないよ、お父さん…喧嘩の仲裁なんかは酒飲まない私がやるし、書類仕事は私も手伝うから明日から頑張ろう』

紺炉「悪いな…」




〜第8サイド〜

桜備「さっきのあれとは同一人物とは思えないな、それに中隊長の娘なのか?」

火縄「あれが素なのかもしれませんね、皇国出身ならその可能性は低いと思いますが…何にせよ家族のようなものなのでしょう」

桜備「ますます第8の隊員に欲しいな、勧誘してきちゃダメか?」

火縄「やめて下さい、あれは浅草の神ですよ。実力で中隊長の地位についたのは確実ですが…下手したら声を掛けただけであの2人に消されかねません」

桜備「そうか…」





紅丸と紺炉と共に会場を出て帰路に着く


競技開始前はあれだけ原国主義者はなんだとか第7がどうだとか好き放題言われていたのが嘘だったかのように誰もなにも言わない


噂はあれども今まであまり表に出ることのなかった浅草の破壊神、最強の消防官と噂される浅草の破壊王、浅草の大火事で巨大なクレーターを出現させた火消しの元頭

浅草の三大バケモンが揃い、そのうちの1番弱そうだと思っていた一人にただの模擬戦で消し飛ばされた競技場を見て同じ目にはあいたくないという事だろう


優勝者であると言うのに会場を出ていくのを誰一人として止めようとはしなかった




帰り道


紺炉「本当によかったのか?」

『なにが?』

紺炉「あなたなら皇国のやつとだって馴染むことはできたはずだろ」

『私は浅草のほうが好きだから』

紺炉「だが手加減して適当にやったって勝てただろ?わざわざここまでして…」

『紅丸や紺炉さんみたいにバケモンだって怖がられたら私が傷つくかもっていう心配?』

紺炉「ああ…昔、紅にも言ったが力があるだけでオマケが付いてくる。名声や信頼…それに恐怖もだ、確かにこれはあなたの喧嘩でもあったが…浅草のためだろ」

『だめだった?』

紺炉「駄目ではねェが…浅草の破壊神だなんて言われていようがそれは浅草の奴らがお前のことを気に入って勝手に言ってるだけだ、だから浅草を背負う必要はねェんだぞ」

『知ってる、浅草のことは紅丸が背負ってくれるから何も心配してないよ。言ったでしょ?浅草が好きだって、浅草のみんなが親しみを込めて私を浅草の破壊神って呼んでいるのと同じで私も好きで浅草のために喧嘩したんだよ』

紺炉「そうか…なら構わねェが」

『お父さんの娘はそんなヤワじゃないって、知ってるでしょ?』


ほんの少し後ろを歩いてた紅丸が隣に来る


紅丸「こいつは浅草の破壊王の顔面に畳跡をつけたような奴だぞ、そんな繊細じゃねェよ」

『それはそれで失礼だと思う』

紺炉「ハハッ、それもそうだな」




そう、皇国の人間にどう思われたって関係ない

今の私には浅草がある

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