第57話

独占欲
2,539
2021/01/24 12:29
逃げ出したい

今すぐこの部屋から逃げ出したい

なんなら詰所から逃げ出したい



そう、私を抱える元は端正な顔立ちの第7の若頭は現在…明王の形相である



紅丸「どこまで関わってんのか教えてもらおうじゃねェか」

『とりあえず降ろしてもらいたいかなぁって』

紅丸「逃げられると思うなよ」


布団に降ろされ、紅丸も布団に入ってくる


『私がここで紅丸が私の部屋で寝んじゃないの?』

紅丸「俺の部屋だぞ」

『たしかにそうではある…』


座っていたが腕を引かれて布団に入れられる


紅丸「さて、話を聞こうじゃねェか」


きっとこんな状況は浅草の女性全員の憧れだろう

だが私は御免だ


綺麗な人が怒ると怖いというがおそらくそれは事実だろう

片手で顔を背けられないように掴まれ、目の前には明王の顔面である

顔が怖すぎて耐えるまでもなく洗いざらい吐いてしまおうという気持ちになる


『紺炉さんに紅丸が銭湯に行くって教えたり…写真選び手伝ったり…?』

紅丸「写真選びだァ?他にも写真があるんじゃねェだろうな?」

『ある…かもしれないです、かね』

紅丸「場所は」

『……私の部屋です』


紅丸(何であなたが持ってんだ…まぁいい)


紅丸「起きたら持ってこい、一枚残らず燃やす」

『やだ』

紅丸「は?」

『燃やさなくたっていいじゃん、べつに売ったりするわけじゃないんだから』

紅丸「男の素っ裸の写真なんて持っててどうすんだ」

『保存しておくだけ』

紅丸「見て楽しんでんのかよ」

『眼福ではあるけど…何か勘違いしてない?』


紅丸はあなたがもしかすると他の隊員の写真も持っているかもしれないと思い苛立つ


『ちなみに私の部屋にあるカレンダーはちゃんと買ったものだから、それは燃やされるいわれは一切ないからね』

紅丸「わざわざ皇国のクソったれ共が写ってるの七曜表買ったのか」


その言葉に紅丸は更に苛立ちを覚える


『特殊消防隊のカレンダーだからそりゃ皇国の隊も写ってるよ』

紅丸「浅草の中隊長ともあろう奴が男の素っ裸の写真集めて…しかも皇国の男にまでうつつを抜かしてるなんて知られりゃ浅草の恥だ」


紅丸(大人になるまで一切手を出さねェことにしたのが裏目に出たのかよ…クソッ…この程度で嫉妬するなんざガキくせェが気に食わねェ)


今まで大人しく転がって顔を掴まれていた目の前の少女が突然手を振り払って起き上がって言い放つ


『ねぇ、そんな言い方はいくら何でも酷いと思うよ』


起き上がって隣を見ると無表情なのにとても悲しそうな雰囲気の少女の顔が紅丸の目に映り、やってしまった…と内心焦る


紅丸「言いすぎた…すまねェ…」

『じゃあもちろん私の話、黙って聞くよね?』

紅丸「だが…」

『若!浅草の頭が言い訳とはみっともない、そこに正座!』

紅丸「…へい」


まるで紺炉に説教をされてるような気分になる


『カレンダーを買ったのは皇国の消防隊の行事とかに滅多に関わろうとしない第7が珍しく参加してるから第7のページが目当てで買ったんだよ、カレンダーなんだから他のページ捨てたら第7の7月しか使えないから勿体無いけどそんなに気に食わないなら他のページはあげる』

紅丸「は…?」


紅丸(とんだ勘違いじゃねェか…)


『それに残った紅丸の写真を全部引き取ったのは紅丸が見たら燃やすだろうから飾れないし…紺炉さんだと紅丸に言われたら素直に差し出しそうだから、カレンダー制作のために紺炉さんが紅丸の写真を撮るのを頑張ったっていう思い出として取っておこうと思っただけなのにさ…何か言うことは?』

紅丸「すいやせんでした…」


浅草の破壊王が形無しである


『まぁ紅丸の残りの写真が他の人に見られるのがよくわからないけどなんか嫌で引き取ったっていうのもあるし…そこは中隊長らしからないし浅草の恥かもしれないけど…』


紅丸(本人は気付いてねェみたいだが…俺の写真を見られるのがなんか嫌ってその言い方だと俺の事が好きみたいじゃねェか)


怒られ、自分がとんでもない勘違いをしていたと気付き申し訳ない気持ちだったはずなのに途端に期待してしまう


紅丸「写真も七曜表も燃やさねェ」

『珍しく素直に従うんだね』

紅丸「なんか嫌だってのは独り占めしたいってことだろ?そんなに好きなら燃やさねェでやるよ」

『はぁ!?何言ってんの、それじゃまるで私が変態みたいじゃん…』

紅丸「俺の素っ裸の写真を独り占めしてェんだろ?」

『そうじゃなくて…』

紅丸「素っ裸じゃなくても独り占めしてェのか?」


紅丸がニヤニヤと笑って茶化すように言ってくる


『独り占めしたいから貰ったんじゃなくてただ人の目に触れるのが何となく嫌だから貰ったら結果的に独り占めする事になってしまっただけで決して下心とかはなくて強いて言うなら兄弟が取られるのが嫌というような…』


もはや意味不明である


紅丸「そういう事にしといてやるよ」



紅丸(まだそれで構わねェか)

プリ小説オーディオドラマ