紅丸を抱えたまま詰所に戻って来た
詰所の前に降り、暖簾をくぐる
隊員「若!!お嬢!!待ってたんですよ!」
隊員「おかえりなせェ!!」
隊員「若とお嬢が帰ってきたぞ!!」
隊員の騒がしい出迎えに気づいて紺炉も出てきた
紺炉「おう、帰ったか」
『ただいま…』
紅丸「ああ…」
私は事件の後で疲れているというのに何故か訳もわからずキスされて落下して心身共に疲れきっており、紅丸はこれからの説教に気分が沈んでいるらしい
隊員「若!飲みましょうよ!」
隊員「お嬢もどうです?」
腹は減っているがそんな気分ではない
『飲むわけないでしょ』
隊員「じゃあ若だけでも!」
『無理』
隊員「え…?」
『紅丸は酒飲んでる場合じゃないの、酒盛りなら私と紅丸抜きでやってろ』
隊員「へ、へい…」
隊員が去っていく
紺炉「どうした?」
『紅丸が…』
紅丸「待ってくれ…」
『何?弁解するの?』
紅丸「触っていいって言っただろ、それに嫌じゃなかったろ?」
『いいって言ったけどそんな触り方だとは聞いてないし、嫌じゃなかったのと傷付いたかどうかは別だよ…私は遊ばれるのは嫌』
紅丸「遊びじゃねェよ」
紺炉「若…あなたに何かしたのか?」
『…された』
紺炉「もう一度言ってくれ」
『キスされた』
紺炉「きす?」
『接吻、口吸い…しかも2回目は舌入れてきた』
紺炉「紅…!テメェよくも…!」
今にも殴りかかりそうだ
紅丸「嫌だったのか?」
『…もういいよ、お父さん…話があるから行こう』
紅丸「俺は…」
『今は話したくない、紅丸は好きだけど好きでもないのにそんなことする人は嫌いだよ…』
紅丸「誤解だッ…!」
紺炉の手を引いて部屋に入る
紺炉「俺が代わりに殴ってやってもよかったんだぞ」
『いいの、紅丸に怪我させるのは嫌だから』
紺炉「…そうか、若のやったことは最低だが遊びでやったわけじゃねェと思うぞ」
『そうだとしても今は紅丸に限らず誰も受け入れられないよ』
紺炉「今すぐ許してやれとは言わねェよ、気持ちが落ち着いたらお互い話し合うといい」
『うん…』
紺炉「若のことを嫌いになったか?」
『なってない…むしろそれが嫌』
紺炉「好きなのか?異性として」
『……うん、認めたくないけど』
紺炉「若が遊びじゃなくて本気ならどうしたい 」
『どういうこと?』
紺炉「恋仲になりてェとか、今のままがいいとか」
『…今のままでいたい』
紺炉「なんか理由があんのか?」
『この先…今日以上に大変なこともいっぱいあるから…私には誰かと付き合う勇気なんてないよ、自分の命が惜しくなって今日みたいな鬼の鎮魂とか白装束との戦闘とかやらないといけない事に支障をきたすでしょ』
紺炉「いいじゃねェか」
『この星が焼き尽くされても?』
紺炉「それはさすがに困るが…」
『全部終わった後でなら振られたって構わないから安心して告白できるよ』
しばらく考え込むようにしていた紺炉が口を開く
紺炉「……生にしがみついていたくなったっていいじゃねェか、無鉄砲に飛び込むのが勇敢さじゃねェ…むしろ帰る理由があるからこそ生きて帰ろうともがく事も出来るんじゃねェか?」
『それは…』
紺炉「一度ゆっくり考えてみたらいい、どうせしばらくは気まずくて若の顔見れねェとか思ってんだろ?」
『まぁ…はい』
紺炉「見回りやら飯やら空き時間に鉢合わせたくねェってならしばらく俺と一緒にいてここで過ごしたって構わねェ、俺が壁になってやるからその間に心の整理をして説教でも告白でも何でもいいから話し合え」
『いつまで?』
紺炉「何日だろうと何週間だろうと構わねェよ、流石に年単位は困るが…」
『そんなにはお父さんの部屋に居座らないよ…』
紺炉「べつにこの部屋で過ごすのはいいが若とお前さんが仲違いしたままってのは周りも心配するだろ」
『あ…そっか』
紺炉「とりあえず第8の姉ちゃんたちがまだだから一緒に風呂入って来たらどうだ?数人いた方が安心だろ?その間に飯作っといてやるからよ」
『ありがとう…あっ、そうだ』
第8というワードで思い出した
紺炉「どうした」
『修復作業のときに第8のマキさんと友達になったの、それでね…たまに第8に手伝いするから遊びにいっていいかなって話になって』
紺炉「いいんじゃねェか?」
『いいの?』
紺炉「せっかく女友達ができたってんだ、だが他の隊の奴と休み合わせんのは難しいだろ?」
『たしかに…人手足りてないから休みの日でも緊急出動で駆り出されたり休むの難しそうだよね』
紺炉「第7は今日みてェな異例の事態でもない限りは人手は足りてるからな」
『紅丸もいるしそこは安心して任せられるよ』
紺炉「若は行かせたがらねェだろうがどうにかしといてやる」
『何から何までありがとう』
紺炉「可愛い娘の頼みだからな」
『家族と言えば…シンラなんだけどね、私の弟の実の兄がシンラなの』
紺炉「2人の探してる弟は同一人物ってことか…!?」
『うん、出向の許可を取るついでに話すつもり』
紺炉「それなら俺も行こう、ちなみに若は知ってんのか?」
『さっき話した』
紺炉「そうか」
『桜備大隊長の許可が降りたら町の修復作業終わったら出向していい?』
紺炉「第8の許可さえ取れりゃ明日から出向したって構わねェよ、若以上に頑張ってくれてたろ?休んだって誰も文句言わねェよ」
『じゃあ明日、第8が帰るまで手伝ったらしばらく行ってくる』
紺炉「そうと決まればお前さんの部屋に寄ってから第8のとこに行くか」
紺炉と共に部屋を出て自室に向かう
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。