気になったのかただ何となく笑われてるのが嫌で話題を逸らしたかったのかわからないが紅丸が口を開く
紅丸「そういうお前は俺に恋人が出来てたら嫉妬すんのか」
同じ質問を投げかけられた
『うーん、紺炉さんなら恋人が出来ても紅丸とかヒカヒナとか私の事を蔑ろにする事はないと思うから安心だけど…』
紅丸(何でここで紺炉の話が出んだ…気分が悪ぃ)
『でも紅丸は恋人が出来たら保護者的な立場の紺炉さんとだいぶ年下のヒカヒナはまだしも…そんな年が離れてる訳でもないし一人でもやっていける私とは距離が出来そうだし寂しいな』
あまり深刻にとられないようにヘラヘラと笑いながら答える
紅丸(別に何とも思わねェって答えが返ってくると思っていたが…)
『まぁでも紅丸にいい人が出来たら祝福するよ』
紅丸(笑ってはいるが寂しそうな顔しやがって…調子が狂う)
紅丸「今のところ誰とも付き合う気はねェよ」
『余裕がある人のセリフだ…まぁたしかに紅丸はモテるだろうから彼女なんて作ろうと思えばいつだって作れそうだし、大体の人間はその顔面で付き合おうって言われたらNoとは言わないだろうな』
紅丸「お前もその大体の人間に入るのか?」
『うーん、顔がいい人間に好意を寄せられるとか裏がありそうで不気味だから断るかな』
紅丸「俺でもか」
『その顔面は好みだし紅丸はいい人だけど、そもそも紅丸にとって私はヒカヒナと同じで妹みたいなものだろうし何なら今までは男と思われてたわけだし有り得ない事を考えるまでも無いでしょ』
先程はあなたは紺炉やヒカヒナと同じだと自分で否定していた紅丸だが実際に自分は論外だというように言われるとわだかまりを感じた
『そもそも誰とも付き合えないんだよね』
紅丸(こいつなら引く手数多だろ…女だって知ってから近づく男が増えやがったし何なら女だって分かっていながら女も寄ってきやがる…イライラすんな…)
紅丸「何でだ」
『私の近くにいたら両親みたいに死んじゃうかもしれないでしょ?今はだいぶ強くなったけど24時間その人に張り付いて守るなんて出来ないし』
紅丸「またいつか居なくなるつもりか?」
紅丸の心に不安が募る
『一度浅草の騒がしさを知ると皇国で一人で転々とするのは寂しいし、この前の大火事で紅丸も紺炉さんも無理してるのを見てさ…2人が無理するほうが心配だから出ていくつもりはないよ』
紅丸「紺炉の無理は認めるが俺はそんな弱くねェしお前だって紺炉を無理に止めたせいで死ぬかもしれなかったんだぞ」
『紅丸や紺炉さんは浅草を守っていかなきゃいけないけど私は遺していくものもない命なんだから安いもんだよ、無責任かもしれないけど弟ことは託せる人間が別にいるし』
紅丸「どんだけ心配したと思ってんだ、そうやっていつまでも他人の為に生きていくつもりか」
紅丸(あなたが居なくなっちまったら俺は…俺は何だ?)
『自分が死ぬよりこれ以上大切な人が居なくなる方が嫌だし』
紅丸「居なくならねェ、紺炉もあなたも浅草の奴らも一人残さず守れるよう今より強くなってやるからお前も二度と無理すんじゃねェ」
『珍しく真面目なこと言うね』
約束は出来ないため茶化して答えをはぐらかす
紅丸(調子狂って柄にもねェこと言っちまったな)
『ははっ、紅丸とか紺炉さん並に強い人なら私も安心してそばに居れるんだけど…そんな人がうじゃうじゃ居たら世の中バケモンだらけになっちゃうからな』
紅丸(20も離れてる紺炉はまだしもどうしても俺って選択肢はねェのかよ…いや、有り得ねェって最初に思ったのは俺だろ…)
紅丸「ずっと俺の…俺や紺炉のそばに居りゃいいだろ」
言いかけて訂正したが自分の言葉に違和感を持つ
紅丸(何言おうとしたんだ…ずっと俺のそばにいろなんて俺がこいつに惚れてるみてェじゃねェか)
『ははっ、まるで告白みたいだね、そんな事言うと本当にずっと一緒にいるよ?』
少女はただ茶化したつもりだが
思っていたことを指摘され気恥しさもあるが、最後の一言で紅丸の先程から感じていた胸のわだかまりが解ける
紅丸(俺はこの一言が欲しかったのかよ…クソ…)
紅丸「構わねェよ」
『さすがにずっとは無理でしょ…紅丸には紅丸の人生があるんだから、それこそ恋人でもできた時に邪魔になるし』
紅丸(俺が知らねェ誰かと付き合う未来なんざ想像できねェな)
紅丸「寂しいんじゃねェのか」
(確かに現状じゃ友達も居ないわけだし紅丸と今みたいに軽口を叩きあったり出来なくなるって思うと結構寂しいけど…ヒカヒナだって可愛いからそのうち彼氏とかできてあまり話してくれなくなっちゃうかもしれないし…)
『生きてれば会えるんだからそんな気にしないでよ』
紅丸「べつに俺も一生一人だって構わねェんだが」
『紅丸は跡取りが居なくて拾われたって紺炉さんに聞いたし紺炉さんが困ると思うな、きっとあと10年もすれば"早く子供の顔を見せて俺を安心して隠居させてください、若"ってどやされるよ』
(紺炉さんなら実際言いそうで想像するとちょっと笑えるな)
紅丸「ンなもん放っとけ」
『紺炉さん可哀想…』
紅丸「それを言うならお前も"俺の娘がいつまで経っても恋人の一人も作ろうとしねェ…俺は生きてる内に孫の顔を見れねェのか"って紺炉に嘆かれると思うぞ」
『うわぁ…面倒くさ…まぁでもこんな世の中だからこそ両親がいて子供がいて平和な普通の家族を見ると昔を思い出してちょっと憧れるよね』
紅丸「それなら自分もそうすりゃいいじゃねェか」
自分で言っておきながら目の前の少女が大人になり、誰か知らない人間と世帯を持ち子供が出来て幸せに暮らすのを想像した紅丸の胸にどす黒い感情が湧く
紅丸(あなたが誰と一緒になろうと俺には関係ねェのに胸糞悪ぃ…だがこの感情は理解したくねェ…)
『ないない…両親が健在ならっていうただの無い物ねだりってだし、暖かい家庭を築くなんて生産的なことより浅草の破壊神なんて言われてる私には火消しの方が性に合ってるしずっとここに居ると思うよ』
否定の言葉に紅丸の胸からどす黒い感情が消え、代わりにあなたの些細な言葉に一喜一憂してしまう自分の感情を認めざるを得なくなる
紅丸(ああ、認めたくねェが……俺はこいつに惚れてんのか…)
紅丸「…やっぱり放っときゃ消えちまう浅草の神様のために少なくとも大人になるまで誰とも付き合わねェでやるよ」
『べつに寂しいくらいで消えないし、もうすぐ16なんだから子供扱いしないでほしいな』
紅丸「まだ子供だろ」
紅丸(その子供に惚れた俺も俺だが…どうせ本人は誰とも付き合う気がねェんだ、近くに置いとける方が都合がいいし暫くはこのままの関係で構わねェ)
『20歳まで子供扱いするつもり?』
紅丸「少なくとも18くらいまではガキだろ、まぁあなたの成長次第だな」
紅丸(数年程度なら待ってやる…惚れてもらうのはそれから構わねェ、そんだけ待って本人さえ落とせりゃ紺炉だって文句は言わねェはずだ)
その日、紅丸の心の中で謎の決心がついた
数年後に落としてやる…と
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。