紺炉が戻ってきたのが夕方だったが涙が止まった頃には夜になっていた
私が泣き止むまで紅丸は胸を貸してくれて紺炉も手を握ってくれていた
そして怪我で体力を消耗していることもあり、泣き疲れてそのまま眠りについた
紺炉「眠っちまったか?」
紅丸「ああ」
紺炉「布団に寝かせるか?」
紅丸「そうしてェとこだが…離れねェ…」
紺炉「長らく緊張状態が続いて思ったよりもずっと疲労が溜まってたんだろ、本来ならこんな苦労をする年頃じゃねェ…そういやこいつの親は火事で死んだって言ってたがもしかすると…」
紅丸「言いたくねェことなんだろうが、そういうことだろ…」
紺炉「おそらくアドラバーストってのはある日突然無くなるモンじゃねェし手放せるモンでもねェだろ」
紅丸「まぁそう簡単に手放せるモンならこいつも苦労してねェだろうしな」
紺炉「こいつ自体がねらわれてんじゃ怪我が治ってここを出たところでまたそいつらに狙われるのがオチってか」
紅丸「どうするつもりだ…紺炉」
紺炉「こいつさえ良けりゃ自警団で面倒を見ようと思うが、紅は反対か?」
紅丸「俺も拾われた身だ…こいつがいいなら構わねェよ、どの道稽古でもつけてやんなきゃこのまま逃げるのも無理だろ」
紺炉「それじゃあ起きたら本人に聞いみるか」
紅丸「ああ」
紺炉「それはそうと…紅、どうする?これから飯だろ?布団に寝かせるってなら手伝うが」
紅丸「このままで構わねェ、代わりにここに俺の飯持ってきてくれ」
紺炉「わかった、やけにそいつに肩入れするな」
紅丸「こいつを見てたら昔の俺を思い出しちまってな…」
紺炉「ああ、たしかに少し似てるかもしれねェ…やっぱり兄弟みてェだな」
紅丸「うるせェ」
〜数時間後〜
『…う…ん』
(今何時だろう…たしか私泣き疲れて…)
目を開けたつもりが視界が暗く、目元がひんやりする
目元を触ると濡れたタオルがかけてあった
タオルを退かし目の前を見ると
『……っ!!?』
目の前には私の布団のすぐ横で寝る紅丸の顔があった
(何で紅丸さんが…)
紅丸「…あ?…起きたか」
『は、はい…あっ、タオルありがとうございます』
紅丸「それは後で紺炉に言っとけ」
『その…紅丸さんはどうしてここで…』
紅丸「お前が離れねェから仕方なくそのままにしてただけだ…」
『すっ…すみません…!』
紅丸「べつに怒ってる訳じゃねェ、それより腹減ってねェか?」
『お腹…減りました…』
紅丸「それなら飯持ってくる」
部屋から紅丸が出ていってから十数分後、夕飯を持った紅丸と紺炉が戻ってきた
紅丸「飯持ってきたぞ」
『紺炉さん、タオルありがとうございます』
紺炉「ああ、目は…あまり腫れてねぇな」
『おかげさまで…』
紺炉「食いながらで構わねェんだが、聞きたいこと…というか提案がある」
『なんですか?』
紺炉「聞くところ、行くあてもなければ弟の居場所もまだわかんねェし弟を探さずとも狙われてんだろ?」
『まぁ…はい…』
紺炉「発火能力の使い方は誰かに教えてもらったのか?」
『いえ…4歳の時から逃げてるので自力で…』
紺炉「それならここにせっかくお前と同じ煉合能力者の紅がいんだ、俺も第3世代だから発火能力の使い方なら教えてやれる…どうだ?怪我が治ってからも自警団にいないか?」
『でも…そんな迷惑をかけるわけには…』
紺炉「べつに無理にとは言わねェし、何もしないのは気が引けるってなら怪我が治ってから自警団の仕事を手伝ってくれればいい。焔ビトの鎮魂だとか表立って行動したくねェって言うならこの詰所の雑用でも構わねェ…その代わりに衣食住の面倒は見るし俺と紅が稽古をつけてやる」
紅丸「中途半端な実力じゃ弟も助けられねェし自分の身を守れるかすらわかんねェぞ」
『…そうですね、たしかに今回の怪我も私の実力不足です…』
紺炉「少なくとも怪我が治るまではここにいろ、その後は必ずいつまでいろとは言わねェ、他に頼れる場所が出来たり身の危険を感じたならいつここを出て行ってもいい」
紅丸「ここじゃ派手に発火能力は使えねェが炎の操作の仕方くらいなら寝たままでも俺が教えてやれる、多少歩けるようになったら外に出て発火能力の基礎も使い方も教えてやる、それで足が治ったら紺炉に体術と剣術を習えば自分の身くらいは守れるようになんだろ」
(できるだけ迷惑はかけたくないけど…今のままじゃ力不足だし…)
『それじゃあ…よろしくお願いします…!』
紺炉「おう、気が変わって正式に自警団に入る気になったら何時でも言え」
『はい』
紺炉「ちなみに俺はあなたの名字の事を俺の養子か紅丸の弟にしても構わねェと思ってる」
『さすがにそれはちょっと…それに弟っていうのは紅丸さんも嫌がるんじゃ…』
紅丸「俺は構わねェ…」
紺炉「まぁ当分は俺の親戚で通すが…あなたの名字ってどう聞いても名前には聞こえねェよな?親戚のガキの呼び方にしては不自然だしな」
紅丸「愛称だとか偽名で呼べばいいんじゃねェのか?なんか希望はあるか」
『じゃあ……あなたの本名に似た男装用の偽名…でお願いします』
(呼ばれて気づかないっていうボロが出ないように本名に近い名前にしたしこれなら大丈夫なはず…)
紅丸「あなたの本名に似た男装用の偽名か…紺炉の親戚で通すならいっそのこと名字も相模屋にしとけばいいんじゃねェか?」
紺炉「そうだな…とりあえずここにいる間は相模屋って名乗っとけ、他の奴らには相模屋 あなたの本名に似た男装用の偽名で通しておく」
『はい』
紺炉「それじゃあ今夜は飯食ったらもう休め、多少寝たとは言え疲れてるだろ」
『そうですね、色々ありがとうございます』
紺炉「しばらくはここがお前の家になるなんだ、気にすんな」
紅丸「ちゃんと歯磨いてから寝ろよ、ここで済まるなら桶を持ってくるが洗面所と便所は一緒だから便所も行きたきゃ連れてってやる」
『場所教えてもらえれば1人で行きます…!』
自分は全然大丈夫だと言わんばかりに勢いよく立ち上がり歩き出そうとするが痛みで力が入らず倒れそうになる
(ぶつかるっ…!)
床に倒れ込む衝撃を予想し反射的に目が閉じ体が強ばる
しかし予想してた衝撃や痛みはなかった
紅丸「おい…」
紺炉「そんな足でいきなり動いたら危ねえだろ」
紅丸が後ろから私の服を掴み、紺炉が横から私のお腹に手を回し受け止めてくれていた
『すみません…やっぱり洗面所までお願いします…』
紺炉「最初からそうすりゃいいンだよ、子供なんだから甘えとけ」
紺炉が足の傷に触れないように肩と脚の裏に手を回して持ち上げ、私を横抱きにして部屋を出て廊下を進む
『重くないですか…?』
紺炉「紅がお前くらいの頃にはよく稽古後に動けなくなって地面に転がってるのをこうやって部屋まで運んだもんだ、下手すりゃそれよりも軽いぞ」
『あはは…』
(紅丸さんの幼少期か…可愛かっただろなぁ…ってか紺炉さんならたぶん大丈夫って思ってたけど…やっぱり無理…!)
だんだん顔が熱くなる
(原作開始時点の198年を基準にすると5年前だから紅丸さんは17歳で…紺炉さんは…33歳だよね…私とは20歳も違うしお父さんとたいして変わらないじゃん!紺炉さんはお父さんと同じ紺炉さんはお父さんと同じ…)
父親と思い込む事にして頭の中で念仏のように紺炉さんはお父さんと同じと唱える
紺炉「おい、大丈夫か?着いたぞ」
『はっ…はい!大丈夫です!お父さん!』
紺炉「!?!?」
ブフッ!くくくっ…
後ろから笑い声が聞こえ振り向く
紅丸「いや、皿を片そうと思って出てきたんだが紺炉が親父か…ハハッ」
紺炉「何がそんなに面白れェ…」
『すみません…その…面倒見が良いいなと思って…つい…』
まるで先生をお母さん(お父さん)と呼んでしまったような恥ずかしさに顔が真っ赤になる
紺炉「べつにそれは構わねェが…」
紅丸「ハハハッ、お前なかなか面白れェな」
紺炉「お前はいい加減笑うのを止めろ…」
『あの…この先は一人で大丈夫なんで降ろしてもらえますか…?』
紺炉「本当に平気か?」
『はい…壁に捕まれば平気です…』
紺炉「外で待ってるから何かあれば呼べ」
『わかりました…!』
壁際に降ろしてもらいあまりの恥ずかしさにできる限り早く壁伝いで洗面所に逃げるように駆け込み、水で顔を洗い冷やす
それから歯磨きとトイレを済ませて外へ出る
紺炉「大丈夫だったか?」
『はい、何とか…その…1人でもどこかに捕まれば歩けるので…帰りは肩だけ貸してもらえませんか?』
紺炉「いや…俺とあなたの本名に似た男装用の偽名じゃ身長が違いすぎるから難しいと思うぞ…俺は188あるがお前はどう見ても160もねェだろ…」
(たしかに…身長は女にしてはちょっと高い方だけど男子の平均くらいだっけ?でもまぁまだまだ成長途中の子供だし…)
『たしか158くらいはずなんで…たしかに無理そうですね…帰りもよろしくお願いします……』
潔く諦めることにして行きと同じように抱えられる
「158でこれ…40キロくらいか…?さっきも思ったが男にしちゃ軽すぎる、女でもこの体重はねェだろ…ここにいる間だけでも1日3食ちゃんと飯食うんだぞ、食うもん食わなきゃデカくなれねェし怪我も治らねェ」
『はい…』
(たしかに今まで料理とかできる環境じゃなかったしお金にも限りがあるから毎日いっぱいご飯食べれることなんてなかったけど…そんなに貧相なのかな…)
紅丸「戻ったか」
紺炉「それじゃ布団に降ろすぞ」
『ありがとうございました』
紺炉「紅から聞いたかもしれねェが俺の部屋はこの下だ、夜何かあれば隣の部屋の紅を呼んで構わねェ」
紅丸「そういうことだ」
『わかりました』
紺炉「それじゃあ俺たちも部屋に戻るが…早く寝ろよ、おやすみ」
『おやすみなさい』
紅丸「ああ、おやすみ」
(紺炉さんをお父さんって呼んじゃうなんていうとんでもない失態のせいで恥ずかしい思いしたけどそのおかげで素面の状態で笑う紅丸さんが見れたわけだし結果オーライってやつかな…何だかんだでとてもいい一日だったな…)
その日はとても良く眠れた
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。