第58話

感情
2,398
2021/01/24 13:47
ようやっと誤解が解けたらしい


『もう部屋戻る』


(調子が狂う…早くここから去りたい…)


紅丸「今更戻んのか」

『もう寒くないし』

紅丸「まだ手先は冷えてんだろ」

『べつに手先くらいなら』

紅丸「浅草の破壊神が夜中に外に出て風邪引いたなんて知られたら笑われちまうぞ、ほら」


紅丸が再び転がって布団を捲ってここに来いとでも言うように空いたスペースをポンポンと叩く


『もう17で一応女なんですけど』

紅丸「兄妹きょうだいみてェなモンで下心は一切無いなら何も問題無いじゃねェか」


(なんだかここで引いたら負けな気がする…)


『そうですね』


布団に戻り、紅丸とは反対側を向く


(たしかに暖かいな)


突然質問を投げかけられる


紅丸「筋肉が好きなんじゃねェのか」

『弛んだ体よりは筋肉の方が好きだけどべつにムキムキが好きって訳じゃないし、一般的な感性してるから整ってるというか…キレイなものなら何でも好き』

紅丸「よくわかんねェが見たけりゃ見せてやるぞ」


(そうホイホイと見せてやるだとか言われるとなんかイラッとするな)


『何?見てほしいの?』


そう言って反対を向く

すっかり明王のような形相は消え、普段の気だるげな紅丸の顔だ


(ああ、イラついた理由がわかった)


紅丸「見てほしいとは言ってねェよ」

『前に危機感を持てって言ってたよね』

紅丸「あ?」

『男だから何もされないとか思ってるなら大間違いだし、紅丸ってとても人気があるんだよ…知ってる?』

紅丸「…は?」

『そうやって挑発してさ…いくら紅丸が強いって言ったって私みたいに発火能力で身体能力の底上げをできる人間だって居るんだよ?それに美人は男女関係なくモテるんだから襲われたりでもしたらどうするの?それともそういう事をお望みで?』


紅丸(何で怒ってんだ…)


『はぁ…何て言ったらわかるかな…あーそうか』


おもむろに右向きで転がっている紅丸の左肩に手を置く

怪訝な顔をしているが警戒はしていない

そして前に自分がされたように肩に置いた手をズラして首から耳までの筋をツーっとなぞり、ついでに耳たぶを指先で軽く摘む


紅丸「……っ!?」


紅丸(どこでこんな事覚えて来やがった…)


驚きとも何ともいえない顔をしている


紅丸「何しやがるッ…!」

『全てのことは自分に返ってくるって知らないの?』

紅丸「お前な…」


そして前に驚いた時に心臓がうるさいとからかわれたことも思い出す

ここぞとばかりに全て仕返ししてやろうと胸元に耳を寄せる


(なんだ、紅丸だって驚けば心臓早くなるんじゃん)


なんだか気分が良くなる


『お兄さん、心臓がうるさいですよ』

紅丸「元からだ」

『元からこれならそりゃ病気だよ』

紅丸「うるせェ」

『うるせェのは紅丸の心臓だよ』

紅丸「…チッ」

『ふふっ…』



暖かくて眠くなってくる

とても落ち着く、先程感じた苛立ちも消えていた


夢のこともこの先のことも全て忘れていつまでもこうしていたい


紺炉さんとはまた違ったあたたかさ…



微睡みの中で気付く



ああ…きっとこれは親愛以外の情だ



薄々感ずいてはいたが

認めてしまえばきっと決意も何も揺らいでこの先いざという時に私は動けない

命が惜しくなる



だからこの感情にはまだ蓋をしなければならない



言える日は来ないのかもしれない



でもこうやって家族みたいに近くに居られるならそれはそれでいい



『…おやすみ』


紅丸「ああ」

プリ小説オーディオドラマ