第63話

デート
2,409
2021/01/26 10:11
詰所を出て町を歩く



『せっかくの誕生日なのにこんなことしてていいの?』

紅丸「どうせ何かありゃ呼び出されんだ、何してたって関係ねェだろ」

『焔ビトの鎮魂ならさっきみたいに私がやるし喧嘩の仲裁も問題ないし、瓦の修理とかは他の隊員に任せればいいんだから詰所帰って転がってても一人で散歩してきてもいいんだよ?』

紅丸「これで構わねェ」

『そもそもデートってどんなもんか知ってるの?』

紅丸「逢引のことなんだろ?」

『でもそれってたしかこそっそりするもんでしょ』

紅丸「じゃあどうすんだよ」

『今のご時世はですね、堂々と逢引するんですよ』

紅丸「それもう逢引じゃねェだろ」

『だからデートなんだって』


デートとは逢引とはなんぞやと言うもはや国語の時間だ


紅丸「それならそのデートってモンがどんなのか教えろ」

『皇国ならまだしも浅草でのデートはどうすればいいのかわからん』

紅丸「どうすんだ…」


(前世での浅草とか鎌倉とか京都でのデートって感じなのか?でも地元だしな…そういう所の地元デートとかさっぱりわからない…どこに行くとかじゃなくて大まかな動きとして考えればいいのか?)


『基本は…手繋いでぶらぶらするとか?食べ歩きとか?お互い楽しければ何でもいいんだと思う』

紅丸「皇国も原国もだいたい同じだな」

『それならわざわざ私が教えるまでもないな』

紅丸「行くぞ」


手を出される


『迷子になる歳じゃないんだけどな』

紅丸「お前が言ったんだろ…」

『ああそうか、そうだった、ごめん』


手を握る


(大きいしあったかいな、そもそも紅丸の近くって冬でもなんかちょっとあったかいんだよな)


『なんか紅丸の近くってあったかい気がするんだけど』

紅丸「発火能力だ」

『ずっと使ってるの?』

紅丸「ずっとじゃねェ」

『??』

紅丸「寒いの苦手なんだろ」

『なるほど…ありがとう、あったかくて居心地がいいんだよね』

紅丸「それでよく近くにいんのか…」

『それもあるかもしれない、それよりどこ行くの?』

紅丸「行きてェとことかあんのか?買い物だとか」

『無い…よくわからない』

紅丸「着物だとか簪だとか欲しくねェのか?」

『貰ったものは大切にするけど物欲自体はそんなにないというか』


私としてもそういう可愛らしいものは好きだが職業柄難しい


紅丸「まるで前みたいにいつ居なくなってもいいように荷物を必要最低限にしてるみてェだな…そうはさせねェが」

『そんなつもりはないんだけど…そもそも業火に身を投じる消防官には装飾品なんかは無理でしょ?』

紅丸「今日じゃねェが燃えねェモンやるよ」

『??』

紅丸「まあ今日は食い歩きでも構わねェ」

『はぁ…?』



手を引かれてそのまま着いていく


ついたのは先程とは違う甘味処だ


店員「いらっしゃい、あら!紅ちゃんじゃないの、お誕生日おめでとう、今日はオマケしとくわよ!」

紅丸「ああ」

店員「あら、後ろの子は紅ちゃんの連れかしら?」

紅丸「そうだ」

店員「べっぴんさんねぇ!…ってあなたちゃんじゃない!?ついに浅草の破壊王と破壊神がくっついたの!?」

『そういうわけ…「団子食うんだろ」』


オイ、話を遮るな

付き合ってないと否定しろ


店員「あら…そういうことなのね、頑張って紅ちゃん」

紅丸「うるせェ、あなたは食うモン決めろ」

『じゃあみたらし団子とお茶』


席に届いた団子を食べながら話す


『あのさ…否定しようよ、勘違いされるじゃん』

紅丸「デートなんだろ?」

『名目上はね、実際は兄妹でお出かけって感じじゃん』

紅丸「恋人らしいことしてやろうか」


皿から1本団子を取って私の口元に差し出す


『……』

紅丸「食え」


4個刺さってるうちの1つを口に入れる


『うーん、食えというセリフが宜しくない減点』

紅丸「何を審査してんだよ」

『紅丸は顔がいいから許されるけど一般的に俺様は好かれないよ』

紅丸「文句は受け付けてねェ」


そう言ったと思ったら次は立ち上がって顔に手を伸ばしてくる

口元に紅丸の指が触れる

口元を拭った指は何故か紅丸の口に運ばれた


紅丸(甘ェ…)


『…!?』

紅丸「何点だよ」

『そういうのはよくないと思う』


頭の中で警鐘が鳴る、このままではまずいと

しかし顔に熱が集まるのはどうにも出来ず下を向く


紅丸「あ?」

『世の中の女性は勘違いするからそういう行動は慎んだ方が宜しいかと思いますよ、若』

紅丸「へっ、ガキが」


紅丸(早く自分のモンにしてェ…)



その後は団子を食べることに集中して口数も減った


団子を食べ終わって私から話を切り出す


『2日後にヒカヒナの誕生日もあるでしょ?だからこの後買い物行こうと思うんだけど』

紅丸「それじゃあ行くか」



席を立って次の目的地に移動する


町をぶらぶら歩きながら何を買おうか悩んだ結果、あのお団子ヘアーに簪を指すのもいいんじゃない?という結論に至って髪留めの売ってる店に来た


やはりここでも茶化されるが懸命に説明することは諦めた


色んな綺麗な簪やヘアピンのような小物がいっぱいあって悩んだがいつも付けてるヘアバンド?と同じ色の飾りの付いた簪を買って店を出た


『時間かかっちゃってごめん、ヒカヒナ可愛いからどれにしようか迷ってさ』

紅丸「構わねェ」

『宴会もあるしそろそろ帰ろうか』

紅丸「…ああ」

『どうかした?』


店を出てからなんか様子がおかしい


紅丸「何でもねェ」

『ああ、トイレ?待ってるから行ってきていいよ』

紅丸「違ェよ…」

『そんなにソワソワして…我慢してると体に悪いよ』

紅丸「人の話聞けよ…これやる」


懐から包みを出す


『何これ』

紅丸「開けてみりゃいいだろ」


包みを開けると紅丸を思わせるような紅色の手に収まる大きさの薄い長方形の布のケースが出てきた

さらにそれを開けてみると木でできた櫛…つげ櫛が出てきた


『櫛…?』

紅丸「ヒカゲとヒナタの髪を梳くついでにあいつらの櫛使ってただろ、今度からはこれで梳いてやる」

『ありがとう、今度からはこれ持って紅丸の部屋行くよ』


そう、私が早朝から仕事があるときは別だが日課として私の髪も紅丸に梳かしてもらっている

いつぞやの約束は果たされていた


紅丸「…ン」

『それじゃ詰所に戻ろうか』


なんだか気分が良くて今度は私から手を差し出す


紅丸「しょうがねェな」

『行きは紅丸からしたじゃん』

紅丸「忘れた」


そう言いつつも手を握ってくれる


『よし、帰ろう』

紅丸「また休みの日に付き合ってやる」

『今度は皆で出かけよう、ヒカヒナを連れて皇国のスイーツ食べ歩きも有りだな…』







この日から浅草の破壊王と破壊神が付き合ってるとかどうとかいう噂が流れ、それを聞いた破壊王が外堀から埋めるのも悪くはねェなと考えたとか考えてないとか…

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