第33話

届け物
2,719
2021/01/19 06:24
5月になった


あれから白装束の拠点を探しては週一ペースで潜り込み、蟲だけを持ち出して処分するということしている


あまり手を出しすぎるとしつこく追われるからだ



(5月の6日は紺炉さんの誕生日か…一緒に祝いたかったな…)


相変わらず浅草が恋しい


(プレゼントだけでもどうにかして渡せないかな…)



そう考えた結果、誰かに頼めばいいと言う結果に行き着いた



5月6日

ヒカヒナ用に皇国のお菓子もいっぱい買っておいた


髪も伸びてきてしまっているのでウィッグで隠し、着替えて荷物を持つ


早いうちに浅草へ向かった


手荷物にはチョコなんかも入っているし人も少ないので自分からちょっと離れた半径1mほどのところの空気を発火能力で操作して姿を隠している
土手を歩いていると丁度いい数人の子供を見つけた

土手をおりて手前で陽炎を解いて話しかける

『ちょっといい?』

子供「だれ?」
子供「どうしたの?」
子供「お兄ちゃんどこかで見たことある!」
子供「あっ、もしかして神様?」


気付いたなら話は早い

『そうだよ、今は訳あって浅草には居られないくてね…でも今日は紺炉さんの誕生日だから特別にここまできたけどこれ以上は行けないんだ、だからお手伝いしてくれるかな?』

子供「いいよ!」
子供「何すればいいの?」

『お金とこの荷物を渡すから大通りのお店で餡蜜を買ってから自警団の詰所に行って紺炉さんに神様からだって言って渡してほしいんだけど…できる?』

餡蜜は紺炉の好物だ

子供「荷物とお金をもってー」
子供「大通りであんみつを買ってから詰所に行って…」
子供「紺炉さんに神様からお届けものがあるって言えばいいんだよね!」

『完璧だよ、千円渡すから餡蜜買った残りは皆でお菓子でも買って食べな』

子供「ありがとー」

『あとこれ、皇国のお菓子もあげる』

子供「いいの?わーい」

『じゃあこの荷物と餡蜜と伝言、よろしくね』

子供「うん!任せて!」

『ありがとう、じゃあね』


陽炎で姿を消す


一応心配なので姿を消したまま少し後ろをついていく


まずは餡蜜を買いに行く

そして手の相手いる子が受け取ってから詰所へ向かう

子供「こんにちはー」

火消し「どうした?」

子供「こんろさんいる?」

火消し「待ってな、呼んで来てやるから」


姿は消したまま詰所の入口から10mは離れた路地から見守る


紺炉「どうした?俺に用があんだって?」

子供「あのね、お届けものなの」

紺炉「俺にか?」

子供「うん!神様にたのまれたの!」

紺炉「いつだ?」

子供「ついさっきだよ、川の近くで遊んでたら話かけられたの」
子供「これいじょうは行けないから代わりにとどけてって」
子供「神様、浅草にいられないんだって」

紺炉「あっちの土手の方か?」

子供「そうだよ」

紺炉「届け物はありがとな、おい!これを俺の部屋に置いてきてくれ、少し出てくる」

近くにいた火消しを呼び止めて荷物を渡すと走り出した

(まさかわざわざ行くの?)


身体強化を使って別の道から土手に先回りする

少しして紺炉がやってきた

あたりを見回しながら歩いてる

紺炉「あなたの本名に似た男装用の偽名!いるなら出てきてくれ」

私の名前を呼びながら小走りで探している

紺炉「もういねェのか…?」

あと数mですれ違う

かなり狭い範囲で発火能力を使って姿を消している上に焦っているからきっと気付かずに通り過ぎていくだろう…

(ここまでしてくれてるのに見て見ぬふりって言うのは…)


紺炉が隣を通り過ぎる瞬間に姿は消したまま一言声をかける


『紺炉さん…誕生日おめでとう、いつか戻るから』


そして紺炉が振り返ろうとすると同時に身体強化で全力で走り出し、脇を抜けて去る


紺炉「あなたの本名に似た男装用の偽名…!?どこだ!?」

後ろから声が聞こえて来るがまだ帰れないので立ち止まることも返事をすることもできない


紺炉さんがどんな顔をしていたかは見えなかった


走って風で目が乾いたせいか少し涙が出てくる


(早く帰りたいな…)

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