第23話

誕生日
2,715
2021/01/17 15:39
2月20日


ついに紅丸の誕生日、そして浅草を出ていく日がやって来た


早朝、紺炉と同じ時間に起きる


紺炉「おはよう、起こしちまったか?」

『おはよう、大丈夫』

(うわ…えっちだ)

紺炉「まだ寝ててもいいんだぞ」

『ううん、紅丸のとこに行ってくる』

正直寝起きの紺炉さんはいい意味で目の毒だ…

下ろしたままのちょっとだけ長めの髪とかちょっとはだけた和服とかのせいで色気が…おそらく老若男女、少なくとも浅草の町民には全員にどストライクでクリティカルヒットだろう

(私もお父さんと思ってなければ惚れてたかもしれない…恐ろしや…)




紺炉の部屋を出て階段を上がり
自分の部屋の隣、紅丸の部屋に入る

紅丸は紺炉よりは遅く起きるのでまだ寝ている時間だ

起こさないように慎重に近寄る

(紺炉さんもそうだけど寝顔までキレイだな、アホ面で寝ないのすごいな…最後だしちょっとくらいいいよね)

頭をそっと撫でてみる

(うわぁ…サラッサラ、これは癖になる触り心地…天は二物を与えずって言うけど二持どころじゃないわ)

紅丸「あ"?」

『あっ、ごめん』

紅丸「あなたの本名に似た男装用の偽名か…」

『うん、おはよう』

髪を弄りながら答える

紅丸「何してんだ…」

『いや、サラサラだなって思って』

紅丸「何言ってんだ」

訳が分からないと言った感じだ

『そうだ、誕生日おめでとう』

紅丸「そういやそうだったか…わざわざそれを言いに来たのか?」

『うん、一番乗りでしょ』

紅丸「ああ、ありがとよ」

軽く頭を撫でてくれる

『そうだ、ご飯食べたら散歩行こうよ』

紅丸「ん…」

『じゃあ先行って待ってるよ』


紅丸の部屋から出て自分の部屋で作務衣に着替える

そして部屋着にしている紅丸のお下がりの和服は丁寧に畳んでこれは持ち出す荷物に入れる
皇国では和服は目立つから着れないだろうが思い出として1枚持って行きたいというだけだ

そして部屋を出て朝食を食べに行く

少し待っていると紅丸もやって来た



朝食を食べ終わってから詰所を出て適当に散歩する

「紅丸!誕生日おめでとう」
「紅ちゃん、誕生日なんだろコレ持っていきな」
「あんな小さかったのがもう18か」
「大きくなったねぇ」

などといつも以上にいろんな人から声をかけられている

『紅丸は人気者だね』

紅丸「人のこと言えねェだろ」

『紅丸には負けるよ』

紅丸ほどではないが私の手にもそこそこ貰い物がある

一旦詰所に戻る

『一旦荷物置いてくるから居間で待ってて』

紅丸「わかった」

部屋に戻る


紅丸が町の人たちに囲まれてる間に買いに行ったお菓子の入った紙袋を一旦押し入れに仕舞う

そしてその袋の中に紺炉とヒカヒナ宛の手紙を入れておく


部屋を出て居間に行くと紅丸が待っていた

『お待たせ』

紅丸「大福食うんだろ」

『うん、ありがと』

大福を受け取って食べる

『紅丸は今日で18だっけ?』

紅丸「ああ」

『じゃあまだまだだね』

紅丸「何がだ」

『なんでもない』

紅丸「あなたの本名に似た男装用の偽名の誕生日はいつなんだ」

『今年の10月の初めで14だけどまだまだ先だよ』

紅丸「へっガキだな」

ちょっと意地悪そうな顔で笑う

『うるさいな、紺炉さんならまだしも4つしか変わらない紅丸には言われたくないね』

紅丸「俺から見てもまだガキだ」

『早起きして眠いから膝貸してよ、ガキだって言うなら大人の紅丸はもちろん子供の頼みを無下にするなんてしないよねぇ?』

(本当は今日でお別れだから今後のやる気のためにも推しを堪能しておきたいからだけど…)

それを言う訳にはいかないので少し嫌味な言い方になってしまう

紅丸「チッ…」

舌打ちしながら畳に寝そべる

『何で転がってんの?』

紅丸「膝じゃなくたっていいだろ、テメェがいつもより早く起こしたから俺も眠いんだよ」

『しょうがないな、僕は誰かと違って大人気なくないから折れてあげる…よいしょ』


紅丸の横に座り込み、横向きで寝転がり頭を支える紅丸の腕を両手で引き抜く

そしてそのまま腕を枕代わりにして転がる


紅丸「お前なァ」


(私の力なら紅丸は腕を動かさないことも振り払うことも出来るのにしない好きにさせてくれるあたり優しいんだよね)

『許してくれるよね?あとついでだから頭撫でて』

紅丸「面倒臭ェ…」

『紺炉さんは昨日一緒に寝てくれたし頭撫でてくれたよ』

紅丸「それなら紺炉のとこに行けばいいじゃねェか」

『今日は紅丸』

紅丸「だんだん図太くなってきてねェか」

そう言いながらも撫でてくれる

『誰に似たと思う?』

紅丸「知らねェな」

『紅丸だよ、誰か呼びに来たら起こして…おやすみ』

紅丸「誰の誕生日かわかったもんじゃねェな」


早朝に起きて散歩もしたせいか少し疲れていて目を閉じてすぐ眠りについた





少しして紺炉が来た


紺炉「紅、いるか」

紅丸「静かにしろ」

紺炉「あなたの本名に似た男装用の偽名もいたのか」

紅丸「で、何の用だ」

紺炉「宴会だからもう少ししたら大広間に来いってだけだ」

紅丸「わかった」

紺炉「それにしてもお前もこいつには甘ェんだな」

紅丸「うるせェ、人のこと言えんのかよ」

紺炉「何のことだ?」

紅丸「俺や他の新入りのときは褌一丁で火炙りにして浅草中を引き回して水に沈めて括りつけてぶん回したじゃねェか」

紺炉「こいつを裸で引き回したりしようもんなら変な虫が付いちまうだろうが」

紅丸「親バカかよ…」

紺炉「お前だって男なら誰だろうと稽古の時は立ち上がれなくなるまでボコボコにしてるがこいつのことはあざ一つ作らせたことねェだろ」

紅丸「男だろうが女だろうがこの顔じゃ無理だろ…」

横で寝ている少年の顔に触れながら言う

紺炉「おい、変な気は起こんじゃねェぞ…」

紅丸「俺のことを何だと思ってんだ、ガキに手ェ出すわけねェだろ」

紺炉「ガキ以前に男だぞ」

紅丸「たぶん出さねェ」

紺炉「頼むからそこは嘘でもいいから絶対に手は出さねェって言ってくれ…」


紅丸「いっその事こいつが後継なら良かったんじゃねェか?」

紺炉「それはまた違ェよ、浅草を引っ張っていくには向いてねェ」

紅丸「だが浅草の破壊神なんて呼ばれてンじゃねェか」

紺炉「確かにこいつは神様の後ろ盾ねェ浅草で死に際の希望になれるかもしれねェ、だが真面目で優しすぎンだよ…それにまだこいつにとっては浅草はまだ一時的な居場所にすぎねェ」

紅丸「真面目で優しいののどこが悪ぃんだ、それに待てばいいじゃねェか」

紺炉「先代の言葉を忘れたか?この浅草を仕切るのは大馬鹿野郎にしか務まんねェってな」

紅丸「日輪を背負う覚悟は出来たつもりだがその意味はまだわからねェ」

紺炉「こいつは普通なら自分が生きるので手一杯のはずなのに赤の他人を拾って弟として育てて攫われた後も見捨てる事なく探して、世話になってるからって浅草の面倒まで見て…何でも抱え込んじまう、これ以上背負わせたらいつか潰れて消えちまう…だから大馬鹿野郎じゃなきゃ務まらねェんだよ」

紅丸「こいつが潰れねェようにするにはどうすりゃいい」

紺炉「火消しの頭は代々神様の真似事で日輪を背負ってきてんだ、浅草の破壊神は太陽神みてェに鎮魂のケツ持ちをしてくれるモンじゃねェが元からそんなモンを求めてる訳じゃねェ浅草にはちょうどいいじゃねェか、いつかこいつが浅草に留まることを決めたならお前が日輪として背負ってやんだよ」

紅丸「こいつが日輪か…それもいいかもしれねェな」


紺炉「ああ、話が長引いちまったがそろそろ俺は大広間に行くからあなたの本名に似た男装用の偽名が起きたら紅も来いよ」

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