紺炉の部屋の前で襖越しに声をかける
『お父さん、いる?』
紺炉「ああ、入っていいぞ」
部屋に入り適当に座る
床には布団が敷かれており紺炉は隊服から着替えて髪も下ろしている、これから寝るとこらしい
紺炉「第8の姉ェちゃんたちはいいのかい?」
『ん?』
紺炉「あっちで布団敷いて一晩中話し込んだりしなくていいのか?若い女はそういうのが好きだろ」
『マキさんやタマキちゃんと話す時間は明日からいっぱいあるし、それよりしばらく会う機会減るしお父さんと居たいなって』
紺炉「嬉しいこと言ってくれるなァ」
『娘ですから』
紺炉「だがそれなら布団取ってこねェとな」
『一緒に寝ればいいでしょ』
紺炉「甘えたか?」
『寝てる間に紅丸が来たら困るなって思って、落ち着いて寝たいから』
紺炉(俺は男じゃねェってか…)
紺炉「俺と一緒なら落ち着いて寝れんのか?」
『だってお父さんと一緒に寝てれば私のこと起こそうとしたらお父さんも起きることになるし紅丸が連れて行こうとしても私が嫌がってればお父さんがどうにかしてくれるでしょ?』
紺炉「まあな…」
『それじゃ…』
敷いてある布団に勝手に入る
仰向けになり紺炉の方に顔を向けると仕方がない…といった表情をしている
紺炉「ったく…しょうがねぇな」
そう呟いて灯りを消して紺炉も布団に入ってくる
紺炉(若には悪ぃが…今回ばかりは若が原因だしな、自業自得ってやつだな)
『一緒に寝るの久しぶりだね』
紺炉「そりゃそうだ、お前さんも17だからな」
『そっか、もう親と一緒に寝るような歳じゃないのか』
紺炉「今更気づいたのか…」
『まあまあ、いいじゃない』
まだ親と寝るような歳の頃に両親共に死んでしまったのだから仕方がないだろうと自己完結して適当に返す
紺炉「可愛い娘の頼みだからな」
これはいろんな偶然が重なり、結果的にあなたが紺炉を「お父さん」と慕い、紺炉があなたを娘として大切にしようとしているからこそ成立している関係だ
そしてあなたと紅丸は気持ちを伝えこそしてないもののお互いに好いている事を2人を大事に思っている紺炉は知っている
だからこそ紺炉は心の底に僅かに見え隠れする感情の火種に蓋をすることが出来ている
『ありがとう、そうだ…明日から第8に出向するけど灰病の治療はしないといけないし寝る前でもいいから時間ある時に電話してくれれば5分で来るから、出動要請入ってもそのまま現場まで飛んでいけるし』
紺炉「すまねェな、俺も時間があれば第8まで出向く」
紺炉がこちらに顔を向けて申し訳なさそうな顔で応える
『気にしないで、私が好きでやってることだから』
紺炉「お前さんは他人を助けるためにすぐに無理するからな…第8は人手が足りてねェし第7よりも管轄地が広いから忙しくなるだろ、灰島の抑制剤だってあんだから無理はすんな」
『いいのいいの、お父さんに会いたいだけだから』
紺炉「ありがとな」
紺炉(この立場も悪くねェな)
そう言って頭を撫でてくれる
『へへっ』
紺炉「そういや出向の話はまだ若にはしてねェが…直前まで言わねェでおくか?」
『うん、出るときに伝えるよ』
紺炉「黙って出ると仕事放り出して探しに行っちまうしな」
『私がいない間、紅丸ちゃんと仕事するかな』
紺炉「あー…どうだろうな」
紺炉の苦労は多い
『ごめんね』
紺炉「せいぜい俺の書類仕事が少し増えるくらいだ、構わねェよ」
『でもただでさえお父さん色々と他人に世話焼いて忙しいんだから』
紺炉「あなたと同じで好きでやってる事だ」
『でも…』
紺炉「書類仕事に灰病は関係ねェし、若が書類仕事を嫌がるのはいつもの事だからな」
『本当に無理しないでね、お父さんが呼べばいつでも戻ってくるから』
紺炉「その程度で帰ってこいなんて言わねェよ、まぁお前さんが居た方が詰所の空気が明るくて嬉しいがな」
『そんなことないよ』
紺炉「あるさ、俺の大事な娘なんだ」
『照れるな…』
紺炉「俺は立場上、若とあなたのどちらかしか助けられねェって時には若を助けなきゃならねェが…一番大切にしてェのはあなただ、だからお前さんに浅草や若の為に自己犠牲を強いることは絶対にねェ」
『どういうこと?』
紺炉「今回の事だって若になら大事な娘を預けても問題ねェとは思ってるが若の気持ちを受け入れてやれと言うつもりはねェんだ、何なら覚悟が決まらねェってなら正直にそう言って若にいつまでも待たせりゃいいのさ」
『そもそも紅丸は本気だって言ってたけど本当なのかな…』
どうせ今は好いてもらっても応えることはできない上に先の事の保証もなく、本気なのかどうかさえわからない…不安だらけだ
紺炉「若は博打でスってきたことを隠すことはあってもそういう嘘はつけねェよ」
『そうだとしたら待たせるなんて申し訳ないよ』
紺炉「若のことだ、時間が掛かったって手に入れられる可能性があんなら勝手に諦めねェで粘るさ」
『紅丸って物欲とかそんな無さそうだしすぐ諦めると思うけど』
紺炉「そりゃ若は壊すのが仕事だから物にはこだわらねェが、そんな若でもな…」
言いかけてやめる
『そんな紅丸でも…?』
紺炉「いや、これ以上は俺が言うのは野暮ってもんだ」
『はぁ…?』
紺炉「気になるなら本人に聞いてみりゃいいさ、話をする気になったらな」
『…考えとく、でも正直に言って待ってもらったところで紅丸は格好いいからそのうち飽きたり忘れたり目移りしたりするよ』
紺炉「そしたらあなたも他にイイ人見つけりゃいいじゃねェか」
『私より強い人じゃないと嫌』
紺炉「そりゃ難しいな」
自覚はある
『まぁそのときは諦めるよ』
その時はその時だ
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。