突然の「許可を取れば何しても許すんだろ?」という紅丸の問いに首を傾げる
『たしかにそう言ったけど…』
紅丸「二言はねェな?」
『心臓の音が聞こえるのも胸が当たるのもどうにもならないから許可くれってこと?べつにそれは仕方ないし付き合わせた私が悪いわけだから本気で落としたりしないよ』
紅丸「そうじゃねェよ」
『じゃあ何…?』
紅丸「顔借りていいか?」
『え…何?顔貸せってチンピラのカツアゲか何か?』
紅丸「そんなことしねェよ、そもそもこの状況で何を巻き上げんだよ…」
『はぁ…?顔貸すも何も今すでに一緒にいるんだけど』
紅丸「そういう比喩じゃなくて直接的な意味で顔貸してくれって言ってんだよ、触れてもいいかってことだ」
『叩いたり引っ張ったりしないならいいけど』
紅丸「俺のこと何だと思ってんだよ」
『第7って消防隊ってよりヤクザじゃん、その若頭だよ?』
紅丸「お前もその一員だろ…まぁいい、触るぞ」
『いいけど』
紅丸の手が伸びて来て何をするのかと少し身構えたが前髪をかき上げられて親指の腹で額を撫でられ、緊張が解けた
紅丸「綺麗に治ってんな」
『炎で治したから、紅丸の手は大丈夫?あの鬼硬かったでしょ』
紅丸「問題ねェ、ちゃんと動いてんだろ?」
ちゃんと動くことを証明するかのように鬼に手刀を入れた右手で髪を梳き、頭を撫でてくる
『怪我してないみたいでよかった』
紅丸「お前の場合は他人の心配より自分の心配しろ」
『私は大丈夫だって』
紅丸「額…綺麗に治ったからよかったが発火能力で治せなきゃ危なかったかもしれねェんだぞ、それに跡が残ったらどうすんだ」
『どうせ前髪で隠れるから傷跡残っても平気だよ、それより紅丸の顔に傷がつかないで済んだから後悔してないよ』
紅丸「…そんなに俺の顔が気に入ってんなら好きなだけ見て構わねェぞ」
『じゃあお言葉に甘えて』
許しが出たので紅丸の顔をじっと見つめる
(いつも気だるげなのに格好いいってズルいよな…左右非対称の虹彩が似合う人って紅丸くらいしかいなさそうだし発火能力使った時の目が一番好きだな…それに鼻筋も通ってるし…唇はわりと厚めで口も大きい…食べられそう)
紅丸の顔を改めて観察していると声をかけられる
紅丸「見すぎだろ…なァ」
『何?穴があきそうだからこれ以上は見ちゃダメだって?』
紅丸「いや…そのまま見てて構わねェ、だが…また触っていいか?」
『ん?顔?』
紅丸「ああ」
『お好きにどうぞ、私も好きに観察してるから』
紅丸「好きにしていいんだな」
紅丸(許可は取ったしな…そんなに俺の顔が好きならいいだろ)
適当に肩に掛けられていた紅丸の右腕が首の後ろに回る
そして腹の上に置かれていた左腕が上がり、左手が後頭部に添えられたと思いきや頭を撫でられる
(人の頭撫でるの好きなのかな…?それにしても紅丸は髪もサラサラだしこの目にかかる長さなのに邪魔とは思えない無造作な前髪も素晴らしいな…もはや芸術作品では?)
そんなことを考えていたら頭を撫でていた紅丸の左手が止まると同時に力が入り、唐突に紅丸の顔が近づく
(は?)
口には柔らかい感触、わずか数cm前には左右非対称の虹彩を持つ赤い目
(柔らかい…近い…え?)
目が悪くなったのかと思い、思わず数回連続で瞬きをする…しかし何も変わらない
いや…変わった、紅丸の表情が気怠げないつもの顔から滅多に見せない柔らかい笑みに…
ごく稀に見せる一番好きな表情と段々と頭が理解し始めたこの状況に顔に熱が集まり、心臓が張り裂けそうなほどうるさくなる
辛うじて紅丸を落とさないように腕に力を入れて耐えた
混乱して固まっていると紅丸の口が離れる
『なっ…なに…』
(何してんの!?端からこのつもりで落とされないための右腕だったの!?用意周到だなオイ!!触るって口でか!?手でとは言ってないから嘘はついてないけどそういうのありな訳!?)
…と言いたいが上手く言葉が出てこない、まさに空いた口が塞がらないと言うやつだ
紅丸「可愛いな…落とすなよ」
そう呟いて先程と同じように紅丸の顔が近づいてくる
しかし先程と違う点が1つ…まるで大福を食べる時のようにあの大きな口が開いている
(は?食われる…)
あまりの衝撃に塞がらずにいた口に食らいつかれたと思いきや次の瞬間、口の中にぬるりと分厚くて温かいものが入ってきた
反射的に噛みそうになるが、紅丸の舌だと理解して踏みとどまる
(いや…これ噛んでいいのでは…!?)
押しのけるには紅丸を抱えている腕を離すしか無いが紅丸を落とすわけにはいかない、かといって故意に噛み付いて怪我をさせるのも嫌だ
しかしどうすればいいか混乱してる間にも紅丸の舌は口の中で動き回る
(一体どういうつもりで…!落とされたいのか!?まずは降りるべきなのか?いや…このまま降りれるか…!?)
考えあぐねていると上顎を舌先でなぞられ、背中にゾクゾクとしたなんとも言えない感覚が走る
『んんッ…!?んー!ンんんー!』
おい!やめろ!などと言っても口を塞がれているせいで言葉にはならない…哀れなり
人の話を聞いちゃいない紅丸はそのまま人の口内を好き勝手する
(無理…)
どうにもならない状況についに頭がパンクした
発火能力の操作が上手くいかなくなり背中から出ていた炎の翼が消えて自由落下を始める
紅丸「オイ!!発火限界か!?」
横抱きにしていた紅丸を手放しそうになったがギリギリのところで片腕で引き寄せて抱え込んだので一緒に落ちている
紅丸「このまま落ちたら死ぬぞ!!」
(いやいや、お前のせいだろ…あー、空が綺麗だ…段々と月が遠のいて…って、遠のいてる!?落ちてる!!)
死んでいた思考が復活し、発火能力で再び翼を出して地面まで200m程度で踏みとどまった
紅丸「大丈夫か?」
『誰のせいだと思ってんの…』
紅丸「すまねェ…」
『説教は帰ってからね』
紅丸を抱え直して詰所を目指す
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!