第34話

再会
2,850
2021/01/19 09:29
太陽暦195年



私も去年の秋で14歳になった


14歳の誕生日は浅草に居られてたならどうだったんだろう等と考えてしまい、寂しいものだった



そしてそうこうしているうちに年も明けた


去年の今頃を思い出す


浅草の自警団で鎮魂などの手伝いをしてた頃だ

(1ヶ月半で出ていくことになっちゃったんだよな…もう浅草にいた期間より出てからの方が長いし…そろそろまた紅丸の誕生日だけど覚えてるかな…)

段々忘れられてないか不安になってきた

(顔見たいな…)


一度、紺炉の誕生日に戻ってからは浅草には近寄ってない


(宴会中に誕生日プレゼントを部屋に置いてくるくらいなら…)


何だかんだで浅草が大好きでとてもホームシックなのである


(バレなきゃいいよね…?)






2月20日


紅丸の19歳の誕生日だ


バレるわけにいかないということで浅草で買い物は出来ないのでプレゼントは皇国で買った

やはり酒だ

皇国は浅草ほどがばがばではないので見た目を誤魔化して買った


荷物を持ち、髪を低い位置で束ねて黒い上着を着てフードを被って出た

今は21時くらい、姿は消したまま浅草の詰所に向かう

段々騒がしい声が聞こえてくる

(今年もやってるんだな)

これならバレずにプレゼントを置いてこれると思い安心する


裏庭に回ってそのまま2階の窓の柵に飛び乗る

周辺に誰もいないことを確認して陽炎を解き、柵の上で器用に靴を脱いで荷物の中にしまう

そして紅丸の部屋の窓を静かに開けて入る

「誰だ」

『…!?』

後ろから首に手が添えられる

(この声は…紅丸!?何でまだ宴会中のはずなのに主役がこんな時間にここにいんの!?)

紅丸「答えろ、何が目的だ…ことによってはこのまま燃やす」

『それは難しいと思う、詰所が跡形もなくなるくらいの炎じゃなきゃ傷もつかないよ』

紅丸「お前っ…あなたの本名に似た男装用の偽名か!?」

紅丸の手は退けられたが後ろは向かない

『うん…』

紅丸「戻ってきたのか?」

『まだ無理…今なら居ないだろうからこれ置いとこうと思ったんだけど…何でいるの』

酒を片手に持って見せるように腕を上げる

紅丸「お前ェが居なくなった日なんだ…楽しい訳ねェだろ」

『ごめん』

紅丸「悪いって思うならどうせまだ飲めねェ酒なんていらねェからここにいろよ…」

『それもごめん…』

紅丸「せめて今日くらいここにいろ」

『ずっとここに居たくなるから無理…もう行くね』

紅丸「顔も見せねェつもりか…」

『顔なんて変わるものでもないし…』

顔を見せるということはこっちも相手の顔を見ることになるからだ

(あの整った顔は見たいけど顔を見たら尚更辛くなっちゃうだろうな)

紅丸「見せろ」

『嫌だ』

紅丸「お前はちょっとやそっとじゃ火傷もしねェから服だけ燃やしても構わねェんだぞ」

『それは困るな…』

(さっき言ったことを逆手に取られたな…)

紅丸「それなら引き止めねェから顔は見せてくれ…」

『わかったよ』


フードを取って振り返る

部屋が暗い上に紅丸は窓側にいるせいで影になっていてこっちからはよく顔が見えない

(残念だけどこれで良かったかも…)


紅丸「髪…少し伸びたな」

今は肩より少し下くらいだ


『伸びたら梳かすの日課にしてくれるって約束』

紅丸「いねェのにどうやって梳かせってんだ…」

『今の倍くらい伸びた頃には帰るよ』

紅丸「絶対に戻ってこいよ…」

『うん、じゃあそろそろ行くけどこのお酒も20歳になってからね』

お酒を部屋の床に置き、紅丸の横を通り過ぎて窓から出ていこうとする

紅丸「待て」

後ろから引っ張られて体勢を崩す

『えっ…?』


後ろから抱き締められた


紅丸「背…伸びたか」

『し、身長なら…伸びた…かも、だけど…あの…一体何を…』


転ぶと思ったせいか予想外の出来事が起きたせいか心臓がうるさい


紅丸「挨拶だって紺炉やヒカヒナにはよく抱きついてきてたろ」

(寂しいのかな…)

『まぁ…はい…ソウデスネ…でもちょっと離して貰えます…?』

紅丸「離したらそのまま飛びてていくつもりだろ」


ご名答


『わかった、いきなり窓から飛び出したりしないから…』

一旦離れてもらう

そして振り返って久しぶりなせいかとても恥ずかしいのを我慢して前向きで抱きつく


私の身長が少し伸びたせいか前よりも顔が近い

今度は私が窓側だったため月の明かりで紅丸の整った顔が割とよく見える


『……っ』


何とも言えない恥ずかしさが湧き上がり慌てて離れた


『じゃ、じゃあね!行ってきます!』


そのまま窓から飛び出そうと柵に足をかける


紅丸「おいっ!…何が何でも戻ってこい」


『わかった』


返事をして仕舞った靴を履き直すのも忘れて窓から飛び降り、姿を消してそのまま走り出す



その日はなんだか眠れなかった


(紅丸が愉快王になってるわけでもないのに変だったせいかな…)

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