第46話

勘違い
2,701
2021/01/21 15:15
早朝


目を覚ました紺炉が一緒に素振りをするから朝起こしてくれと言われていたことを思い出し、着替えてあなたの部屋に向かう


紺炉「起きてるか?」


返事はない

まだ寝ているのかと思い部屋に入ると布団も無ければ誰もいない


紺炉(まさか紅のやつ…)


隣の紅丸の部屋に行き、襖を開ける


紺炉(やっぱりか…まさか手は出してねェだろうな…)


恐る恐る布団に近づくと穏やかな顔で眠っているあなたとあなたに頭を抱え込まれたまま眠る紅丸がいた


紺炉(昨夜の紅は相当焦ってたから仕方ねェか…それにあなたは寝ぼけてヒカヒナあたりと間違えたんだろうな)


安心して起こそうかと思うが手前でやめる


紺炉(深夜に起こされて眠いだろうし、これからは浅草にずっといんだから時間はある…素振りは明日からだって構わねェか…)


起こしてしまわないようにと紺炉は静かに部屋から出ていった




紺炉が去ってしばらくして紅丸が目を覚ます


紅丸(なんか柔けェが前が見えねェ…)


顔を上げると気持ちよさそうに眠るあなたの顔があった

状況を整理する


紅丸(そういや昨日こいつの部屋に行ったら居なくてそれで……)


思い出した


紅丸(まさか俺はこの状況でぐっすり朝まで寝ちまったのか…)


呆れつつ目の前の少女を観察する

未だに髪を短くすれば中性的な整った顔をしているが2年前より幼さが消えている


紅丸(2年間見なかった間にでかくなったな…つってもまだ16手前じゃガキだが、にしても2年前の俺は何に頭を悩ませてたんだか…)


ある感情が頭をよぎるが否定する


紅丸(どう見てもこんなキレイな顔した男がいるわけねェのに男だって言うから違和感があっただけだ…違和感も晴れてそれ以上のものはねェ、こいつは紺炉やヒカヒナと同じだ)


認めたくない感情に蓋をする


そんな事を考えていると目の前の少女が目を覚ます


『うーん……象…』

紅丸(しょうって誰だ…2年間いない間に男でも出来たのか?)

紅丸「起きたか」

『紺炉さん…?』

紅丸「紺炉じゃねェし"しょう"って奴でもねェ」

『紅丸…?』

紅丸「ああ」

『何でだ…』


昨日の夜の事を思い出す

不安そうな象がいて抱きしめて一緒に寝る夢を見たと思っていたが現在抱きしめているのは紅丸の頭である

紅丸の整った顔面に過剰に反応することはなくなったが紅丸を象と間違えた事とずっとこの体勢で寝ていた事に対する恥ずかしさから心臓が破裂しそうになる


紅丸「心臓がうるせェ」

『びっくりして…』


指摘されたせいで顔が熱くなってくるのがわかる、きっと赤くなっていることだろう

見られたくなくて紅丸の頭を抱えていた腕をどけてとりあえず反対側を向こうとするが腕を掴まれてしまう


紅丸「真っ赤じゃねェか」

『暑い…ですね』

紅丸「炎耐性の高い発火能力者がこの程度で暑いわけねェだろ」

『うっ…』


口角だけ上げて不敵な笑みを浮かべる紅丸はやはり顔がいいが腹が立つ


『自分の部屋に戻る』

紅丸「まだ紺炉も起こしにこねェしいいだろ」

『あのさ…いくら家族みたいなものでも血繋がってない上に女なんだから彼女にでも知られたら不評だと思うよ』

紅丸「あ?ンなもんいねェよ」

『は?その顔面でいないとか……あっ、そういうことか』


紅丸は目の前の少女が良からぬことを考えているように感じた


紅丸「何考えてやがった」

『いや、そんだけ強くて格好いい浅草の人気者に彼女の1人も居ないとか有り得ないし…昨日私が紺炉さんと寝てたら怒って引き剥がしたりとか…やっぱり紺炉さんが好きなのか男色の趣味があるのかと思って…』


褒められたことに紅丸の気分は良くなったが最後の言葉ですぐに最低な気分になる


紅丸「ンなわけねェだろ…俺が紺炉をそういう目で見てるとか想像するだけで寒気がするからやめろ…」

『じゃあただ単にそっちの趣味が…?』

紅丸「それもねェよ」

『じゃあ…不能?』

紅丸「お前なァ…」


目の前の少女はわりといつもの事ながらとんでもないことばかり言う


『だってそれくらいしか理由が思い浮かばないじゃん』

紅丸「不能かどうかお前で確かめてやろうか?」

『うわ、特定の人を作らないで散々遊んでる人の発言だ…紅丸がそういうタイプだったとは思わなかった…今の発言、紺炉さんに言いつけてやろ』


仕返しとして冗談で言ったつもりが白い目で見てくる少女に紅丸は謎の焦りを感じた


紅丸「冗談に決まってんだろ…それに遊んでもいねェ、そもそも自警団の仕事と散歩以外はずっと詰所に居ただろ」

『私、2年間居なかったし』

紅丸「お前がいない間も遊んでねェよ…ボロボロで拾われた奴がいきなり消えたんだ、気にしねェで遊んでられるほど軽薄じゃねェよ」


16になる位まで浅草火消しの後継だからと先代の死後も紺炉の稽古に追われ、稽古がなくなってからも自警団の仕事で忙しく
その後はあなたを拾い
18を過ぎたあたりからそういう場所に連れてってやるだとか遊びでもいいから付き合ってくれなんていう誘いはあったがあなたの顔が脳裏に浮かんでそういう気になれなかったのは事実であった


『それはごめん、案外誠実なんだね』

紅丸「一言多いぞ、そういうお前こそ皇国で男作ってきたみてェじゃねェか」

『誰のこと?』

紅丸「起きて一言目に"しょう"って言ってたじゃねェか」

『ああね、昨日の夜寝ぼけてて紅丸を象だと思ってさ』

紅丸「あ?」


何故か鬼の形相である


『顔こわっ…誘拐された5歳下の血の繋がってない弟だよ』

紅丸「は……?」


私の腕を掴んでいた手が緩み、その隙に起き上がる


『名前すら教えられない人間が誰かと付き合えるわけないじゃん、皇国で2年間どんな生活してたと思ってんの?』


心外であると言わんばかりに反論する


紅丸「ずっと一人だったのか…?」

『そう、一人で転々としてたし悲しいことに浅草に戻るまで友達一人出来てない』

紅丸「そうかよ…」

『何?嫉妬でもした?』


もちろん冗談だ


紅丸(嫉妬…そんな女々しいことしねェ…といいてェところだが…)

紅丸「知らねェ」

『なにそれ』


答えになってない答えに思わず笑ってしまった

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