第19話

神様
2,954
2021/01/16 19:57
鎮魂が終わり紅丸と共に詰所に帰ってくる


ヒカヒナ「あなたの本名に似た男装用の偽名!若!待ってたんだぞ」

『ただいま、待たせてごめんね』

ヒカゲ「早くおやつ食わせろ」
ヒナタ「ババアの大福あんだろ!?」

『今用意するからね、紅丸も行くでしょ?』

紅丸「ああ」

『紺炉さんはいるかな』

紅丸「紺炉なら復旧作業の指示してんだろ、もう少しすりゃ戻ってくんじゃねェか?」

『じゃあ紺炉さんの分も用意しておこうか』

お菓子やお茶を持って部屋に行く

ヒカヒナ「早くババアの大福食わせろ!」

『紺炉さんはいつ戻ってくるかわからないし…先に食べてようか』


ヒカヒナ「大福うめぇ!」
ヒカゲ「そういえばさっきのあれ何だったんだ?」
ヒナタ「でけェ柱みてェだったぜ」
ヒカゲ「でもすぐ消えちまった」
ヒナタ「どこ行ったんだ?」
ヒカゲ「それに真っ赤なでけェ鳥もいたぞ」
ヒナタ「でもよく見たら人間みたいだったぜ」

『それたぶん自分だと思う…』

ヒカヒナ「あなたの本名に似た男装用の偽名は鳥だったのか!?」

『違うけど…これでしょ?』

発火能力を使って翼を出して見せてあげる

ヒカヒナ「すげェ!」

『それに柱はたぶん鎮魂で使ったアケボノだと思う』

ヒカヒナ「あれもあなたの本名に似た男装用の偽名が出したのか?」

『そうだよ』

ヒカヒナ「鳥じゃねェなら…あなたの本名に似た男装用の偽名って神様だったのか?」

『それは違うかな、神様は存在しないからね』



しばらくして紺炉が戻ってきた


『紺炉さん、おかえり』

紺炉「ああ、あなたの本名に似た男装用の偽名もと紅もお疲れさん」

紅丸「俺は何もしてねェ」

紺炉「じゃああの鎮魂はあなたの本名に似た男装用の偽名がやったのか?」

『うん』

紺炉「纏は無かったが家がぶっ壊れてたからてっきり紅がやったと思ったんだが」

紅丸「家ぶっ壊したのもこいつだ」

『うん、壊した』

紺炉「皇国の鎮魂じゃ家は壊さねェよな…?」

『そうだけど?』

紺炉「壊したのは構わねェが、何でそうなった?焔ビトが抵抗したのか?」

『自分には苦しそうに見えたけど暴れないで大人しくしてたよ』

紺炉「じゃあ…」

『焔ビトは鎮魂されたら灰しか残らないからまともに葬式も挙げてやれないし危険だからって家族も近くで看取れない、祭り好きだって聞いたのに静かに待ってるのを見てこんな静かで寂しい死に方をするのは悔いが残るんじゃないかと思ってせめてもの手向けとして派手に送り出す事にしたんだ…』

紺炉「そうか…ありがとな」

紅丸「本当に皇国の人間か?」

『まぁ自分の考えは原国主義に近いだろうけど、あの鎮魂はただの受け売りだよ…それに皇国の人間が一概に同じって訳じゃないし』

紅丸「皇国の人間はみんな聖陽教を信じてるんだろ?」

紺炉「早くに親を亡くしたから聖陽教の教えだとかはあまり詳しくねェのか?」

『いや、聖陽教の教えについては親も他の周りの人間もみんな聖陽教の信者だったからよく知ってるよ』

紅丸「それなら親のことが原因か」

『別に信者の両親が焔ビトになったからとか聖なる炎のせいで追われてるとかそういう恨みじゃないよ、こんなクソみたいな世界で聖陽教は人々の心の拠り所にはなってると思うけど…』

紺炉「お前の心の拠り所にはならなかったのか?」

『神はいないし本当にいるとすればそれは物語の作者やゲームの運営みたいな物だと思う。でもこの世界が何度ページを捲り直そうと変わらない小説のように決まったレールの上にあるとは思わないし、だからこそ信じたところで救いも加護もない誰も見たことすらない神様を信じるよりは地に足つけて自分の力で出来る限り悔いのないように…自分の無力さから神に助けを求めないで済むように生きたいなって思うんだ』

紺炉「現実主義なんだな…」

紅丸「子供の発想じゃねェ…」

『原国主義の浅草の人が言うかな…』



そんなこんなであっという間に夜になった

(そろそろ寝るか…)

紅丸「起きてるか」

『うん』

紅丸が入ってくる

『どうかした?』

紅丸「本当に大丈夫か」

『何が?』

紅丸「初めての鎮魂だろ」

『平気だよ、悲しいとかも罪悪感とかもない』

紅丸「昼間も言ったから分かってると思うが浅草の鎮魂は人殺しと同じだ」

『知ってる…でも自分は浅草の鎮魂も聖陽教の鎮魂も同じだと思うよ』

紅丸「どっちも人殺しってか」

『違う、皇国の人が聖陽教を信じてその教えの元に動く消防官とかシスターに鎮魂を頼むようにここの人達は神様はいなくても紅丸とか紺炉さんとか浅草の火消しを信頼してるからここにいるわけでしょ?』

紅丸「信頼だとかそんなたいそうなモンじゃねェだろ」

『いつ自分が人体発火の被害者になるかわからないこんな世界で普通の人は毎日怯えて神様なんていう存在すら怪しい高次元の存在に祈らないとやってられないのに浅草の人達は皇国の人よりも毎日明るく暮らしてる、浅草から出て神様に縋ることだって出来るのにここに居るのは浅草がそれだけ安心出来る場所だってことだと思うし浅草を守ってる自警団のおかげだと思う』

紅丸「俺らは関係ねェ…あいつらが好きでここにいるだけだ」

『町の人が浅草を好きなのは紅丸や紺炉さんのおかげだと思うよ、紺炉さんは強くていかにも頭って感じで安心感があるし紅丸は人を惹きつけるからね』

紅丸「紺炉はまだしも俺はそんなんじゃねェ」

『そんなことあるよ、まぁとにかくそうやって町の人が自警団を信頼してくれてるから安心してる鎮魂できたってこと』

紅丸「そうか」

『それに自分は聖陽教の信者じゃないけど人殺しじゃなくて解放だと思うよ』

紅丸「俺にはそう思うことはできねェ」

『それはそれでいいと思う、でも焔ビトを普通の人に戻す方法がない以上はこうするしかない…焔ビトを人に戻せる日が来たらそこで初めて焔ビトの鎮魂は罪になり、あの時鎮魂してなければ今生きられていたのにって遺族からは責められるだろうし法で裁かれることはなくても特殊消防官も浅草の火消しも等しく人殺しとして罪を背負うことなると思う』

紅丸「わかってて鎮魂したのか」

『うん、自分も両親が焔ビトになって鎮魂されたけど焔ビトがいつか人に戻れる日が来る可能性があったとしても鎮魂を頼むよ。自分の生きていて欲しいっていうエゴで何日も何ヶ月も何年も炎に焼かれる両親を長い間閉じ込めたりして苦しませることはしたくないし、もしも両親が我を忘れて人を殺してしまったらきっと自分も両親も元に戻れたところで苦しむだろうから』

紅丸「そうかもしれねェがそう思わないやつもいる」

『それもわかってる、でもある場所で一度見たんだ…200年前の大災害から炎に焼かれ続けて死ねずにいる焔ビトを』

紅丸「たしかに焔ビトはコアを破壊しなきゃ死なねェとは聞いたが…それは本当か?」

『詳細は言えないけど本当だよ…だから両親にはそうなって欲しくなかったから鎮魂されたことに一切の恨みはないし今回の鎮魂も一切罪悪感を感じたりしてないんだ、まぁ両親のこと思い出したらちょっと悲しくはなったかもしれないけどね』

紅丸「それならいいが、無理すんじゃねェぞ」

『大丈夫だよ』

紅丸「文句も泣きも受け付けてやる」

『いつも紺炉さんには文句は受け付けてねェぞって言ってるのに珍しいね』

紅丸「文句は受け付けてねェぞ」

『ははっ、本当に大丈夫だからそんな心配しなくていいよ』

紅丸「そうか、それじゃあそろそろ寝るぞ」

『そうだね、おやすみ』

紅丸「早く寝ろよ」


紅丸が出ていき私も布団に入る

(ちょっと疲れたけどヒカヒナに鳥だとか神様だとかに間違えられたり濃い1日だったな)



私はまだ知らない

まさか神様を信じない自分が浅草の神になるとは




あなたの本名に似た男装用の偽名の最初の焔ビト鎮魂によって浅草の町の一角に出現した火柱はどの建物よりも高く目の眩むような明るさで炎と言うよりも光の柱に見えた

浅草の住民の殆どがその光景を目撃していたが、それはまるで焔ビトの魂がそらに還るかのようだったという

そして出火場所へ向かう時に飛んでいたことや、空から降り注ぐ炎の槍、浅草の火消しとしてはアリだがそのまだ幼く綺麗な顔立ちや普段の大人しい姿からは想像もつかないような荒々しく滅茶苦茶な鎮魂

そんなことから誰かが言った…
「神様みたい」と

太陽神とは無縁の神などいない浅草だったがその日から浅草にも神様が生まれた

それは聖陽教の太陽神ような手の届かない神聖なものはない、加護をもたらすものでもない

太陽神と違って確かに存在して、太陽なんかよりももっと身近で、人間臭い、綺麗で…ただちょっと壊すのが得意なだけの優しい神様


そしてある日の見回りの時にした町の子供との

「あのときの神様だ!何でいつもおうち壊すの?」
『うーん、それはね…壊した方が派手で楽しいからかな』

なんていう些細な会話がきっかけで

浅草の人々は親愛の情を込めてこう呼ぶようになった


【浅草の破壊神】

プリ小説オーディオドラマ