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第1話

49.胡蝶しのぶの人生③〈栗花落カナヲと幸せの終わり〉
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2024/04/12 09:00





 side.潔








 悲鳴嶼さんとの出会いから数年が経ち、カナエさんは鬼殺隊最高位である柱のうちの1人花柱になり、しのぶも隊士として任務をこなしていた。

 俺達はこれがあなたの下の名前の前世である胡蝶しのぶの記憶だということを受け入れた。そのお陰で、ある程度気楽に光景を眺めることができていた。

 そんなある日。

 橋の上を歩いていると、禿げ頭の目つきの鋭い男が、小さな女の子を縄で縛って歩いているところを見つけた。
潔さん
潔さん
 ん、誰だあれ? 
千切さん
千切さん
 ……さぁ? 
胡蝶カナエ
胡蝶カナエ
 すみません 
胡蝶カナエ
胡蝶カナエ
 その子はどうして縛られているのでしょうか 
胡蝶カナエ
胡蝶カナエ
 罪人か何かなのですか? 
 声をかけたカナエさんに、男は「汚いし、逃げるかもしれないからだ」と無愛想に言い放つ。

 カナエさんは身をかがめると、少女に向かって声をかけた。
胡蝶カナエ
胡蝶カナエ
 こんにちは、はじめまして 
胡蝶カナエ
胡蝶カナエ
 私は胡蝶カナエといいます 
胡蝶カナエ
胡蝶カナエ
 貴方のお名前は? 
カナヲ
カナヲ
 …… 
 少女は答えない。
 しっしっ、と手を払って、「話したいなら金を払え」と言った男。

 カナエさんは哀しそうに少女を見つめていた。
 多分、「どけよ」とでも言おうとしたんだろう。けれど、全てを言い切る前にカナエさんに伸ばされた手ははね退けられた。
胡蝶しのぶ
胡蝶しのぶ
 ……姉さんに、触らないでください 
 カナエさんの斜め後ろに立っていた、しのぶによって。
胡蝶しのぶ
胡蝶しのぶ
 じゃあ買いますよ、この子を 
 続けてそう言ったしのぶは、隊服の懐に手を入れた。

 そして、




 バッ





胡蝶しのぶ
胡蝶しのぶ
 これで足ります? 
 あたりにつかんだお金をぶちまけた。
蜂楽さん
蜂楽さん
 あっちゃぁ…… 
氷織さん
氷織さん
 やったなぁ、しのぶちゃん 
野薔薇さん
野薔薇さん
 あっははは! 
野薔薇さん
野薔薇さん
 うっけるー! 
恵
 流石しのぶさんですね 
虎杖くん
虎杖くん
 めっちゃ金もってんじゃん、しのぶ…… 
 宙を舞うお金に呆気にとられた男から、少女を縛っていた縄を奪い取ったしのぶが走り出す。

 カナエさんも、目を丸くした少女も、一緒に駆け出した。
胡蝶しのぶ
胡蝶しのぶ
 早く取った方が良いですよー! 
胡蝶しのぶ
胡蝶しのぶ
 人も多いし風も強いので 
 走りながら、不敵な顔でそう言い放つしのぶ。

 誰かに取られるかもしれないということに気付いたのか、身売りの男は
 と叫んで、慌ててお金を拾い始めた。
胡蝶カナエ
胡蝶カナエ
 あぁ〜、良いのかしら? 
胡蝶カナエ
胡蝶カナエ
 ごめんなさいねー! 
胡蝶しのぶ
胡蝶しのぶ
 いいの! 
 そんなやり取りが交わされる中、少女はキョトンとした顔で自分の手を引く2人を眺めていた。



 花柱であるカナエさんのためにお館様が用意した蝶屋敷。そこへ連れてこられた少女は、まずお風呂に入れられた。







胡蝶しのぶ
胡蝶しのぶ
 姉さんこの子全然駄目だわ 
胡蝶しのぶ
胡蝶しのぶ
 言われないと何もできないの 
胡蝶しのぶ
胡蝶しのぶ
 食事もそうよ 
胡蝶しのぶ
胡蝶しのぶ
 食べなさいって言われなきゃずっと食べない 
 カナヲと名付けられた少女は、目の前に食事を出されても、ずっとお腹を鳴らしているだけだった。
胡蝶カナエ
胡蝶カナエ
 まぁまぁそんなこと言わずに 
胡蝶カナエ
胡蝶カナエ
 姉さんはしのぶの笑った顔が好きだなぁ 
胡蝶しのぶ
胡蝶しのぶ
 だって! 
胡蝶しのぶ
胡蝶しのぶ
 自分の頭で考えて行動できない子は駄目よ、危ない 
胡蝶しのぶ
胡蝶しのぶ
 1人じゃできないのよ 
胡蝶カナエ
胡蝶カナエ
 じゃあ1人の時はこの銅貨を投げて決めたらいいわよ 
胡蝶カナエ
胡蝶カナエ
 ねーカナヲ 
胡蝶しのぶ
胡蝶しのぶ
 姉さん!! 
胡蝶カナエ
胡蝶カナエ
 そんなに重く考えなくていいじゃない 
胡蝶カナエ
胡蝶カナエ
 カナヲは可愛いもの! 
 正義!と片手を上げるカナエさんに、「理屈になってない!」としのぶが言った。
真希
真希
 ……っぶ 
 気の抜けるようなやり取りに、禪院さんが吹き出した。
真希
真希
 なんなんだ、この会話 
蜂楽さん
蜂楽さん
 まぁ確かに、この子は可愛いよね 
 蜂楽が言うことはもっともだった。

 ぼさぼさの髪と汚れでよく分からなかったけれど、綺麗にしたカナヲは整った顔立ちの持ち主だった。
五十嵐さん
五十嵐さん
 なんかあの周りだけ顔面偏差値高くねぇか? 
千切さん
千切さん
 それな 
乙夜さん
乙夜さん
 つーかカナエさんが可愛い 
 カナエさんの周囲に花が見える。
潔さん
潔さん
 (カナエさん、確実に天然だよな……) 
 だからしのぶは結構ツッコミ役に回りやすいのだろう。
胡蝶カナエ
胡蝶カナエ
 きっかけさえあれば、人の心は花開くから大丈夫 
胡蝶カナエ
胡蝶カナエ
 いつか好きな男の子でもできたらカナヲだって変わるわよ 
胡蝶しのぶ
胡蝶しのぶ
 …… 
 結局、カナエさんに押し切られる形で、カナヲはこの蝶屋敷にしのぶ達の妹として留まることになった。



 でも、そんな小さな幸せも、長くは続かなかった。







 ある日。

 いつも通りしのぶとカナエさんは鎹鴉に伝えられた任務に行った。
胡蝶しのぶ
胡蝶しのぶ
 蟲の呼吸 蝶の舞 
胡蝶しのぶ
胡蝶しのぶ
 戯れ 
 体内に毒を打ち込まれた鬼が絶命する。
胡蝶しのぶ
胡蝶しのぶ
 ……ふぅ 
胡蝶しのぶ
胡蝶しのぶ
 えん、今日の任務はこれで終わり? 
 しのぶは艶と名付けた自分の鎹鴉にそう確認した。
烏さん
烏さん
 相変わらず鴉が喋ってんのには慣れへんなぁ…… 
氷織さん
氷織さん
 ……烏仲間……ww 
烏さん
烏さん
 聞こえてるからな、氷織! 
胡蝶しのぶ
胡蝶しのぶ
 そう。じゃあ帰るわ 
胡蝶しのぶ
胡蝶しのぶ
 もうすぐ朝だし、姉さんももう帰ってるかしら 
胡蝶しのぶ
胡蝶しのぶ
 (……なんだろう。嫌な予感がする) 
胡蝶しのぶ
胡蝶しのぶ
 ……気の所為か 
潔さん
潔さん
 ……? 
 しばらく歩いたところで、カナエさんの鎹鴉が飛んできた。大慌てで飛んできたのだろう。羽が少し乱れている。

 鎹鴉が、任務中に主人から離れるのは珍しい気がする。どうしたのだろうか。
胡蝶しのぶ
胡蝶しのぶ
 ! 
 しのぶが顔色を変えた。
御影さん
御影さん
 上弦……鬼の始祖の配下の中で最強の6体、だったか? 
乙夜さん
乙夜さん
 やばいじゃん 
 鴉が飛んできた方向にまた向き直った。

 しのぶは飛び上がって2階建ての建物の屋根に乗り、走り出す。
 どういう仕組みかはよく分からないけど、俺達はしのぶが動くと俺達自身が1ミリも動いていなくても光景は変わっていく。
千切さん
千切さん
 ……はっや 
 しのぶが今全力で走っているので、周りの景色がどんどん変わっていく。

 ていうか流れているせいで全く見えない。
御影さん
御影さん
 これ、どんだけの速さで走ってんだ……? 
凪さん
凪さん
 軽く70は超えてんじゃない? 
御影さん
御影さん
 それもう人としていろいろとやべぇだろ 

 こうなってしまうと話す他にすることがないが、爆速で走っていたしのぶは数分も経たずに目的地へと到着したらしい。速度が緩んだ。
胡蝶しのぶ
胡蝶しのぶ
 ……っ、ぁ 
 しのぶが、喉を震わせてそんな声にならない声を出した。

 しのぶの足が止まったことで、続いて俺達もその視線の先が見えるようになった。
皆さん
 ……っ! 
高専の皆
 ……嘘 
五条先生
五条先生
 ……、 


 そこには、体の数カ所に深い切り傷が刻まれた、血だらけのカナエさんの姿があった。













ぬし
 こんな雰囲気で言うことじゃないですけど、デイリーランキング66位、ありがとうございます! 

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