金曜日の夜。
前触れもなくそれはやってきた。
同期の莉犬くんと飲んでた時のこと。
その彼が突然、友達呼んでいい?
と言ったのが始まりだった。
スマホ片手に誰かに連絡してる。
待って、
今日は私の話聞いてくれるんじゃなかったの?
先週、3年半付き合ってた彼氏から
突然別れを告げられた。
好きな人が出来たとのこと。
なんとなく予想はついていた。
心の準備をしてる自分もいた。
好きだけど、気持ちが離れていく人を
引き止めてまで
自分の気持ちを貫こうとは思わない。
好きだけじゃどうにもならないことが
あるんだって、この時学んだ。
恋愛もこの通りダメダメで。
仕事も上手くいかず
落ち込んでいた私を飲みに誘ってくれたのに
友達呼ぶというこのありさま。
本当、適当。
でも今はその適当さに助けられてるかも。
誰かに電話してる莉犬くんを横目に
一人ビールを流し込む。
莉犬くんは気さくで柔らかい。
先輩からも後輩からも好かれている。
こんな適当なのに仕事はできるし
歌い手として人気も高い。
なんとも憎たらしいやつ。
いい人だけど
彼氏にはちょっとって感じ。
まぁ、莉犬くんも私のこと彼女には…
って言うだろうな。
仕事の仲間としてはいいと思う。
なんか話ズレてない?
いーやつとかそんなこと
どうでもいいんですけど。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!