第66話

六十六話
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2021/06/16 20:00
愛騎:私は愛されることを切実に望みました。私に「力」を望んでほしくなかった、、私は、絶対に五条悟を越すことはできない。それは周知の事実であり、私ではなくても勝てる人物などいない。だから、私が兄の代わりになることなんてできないと早く分かってほしかった。
焦凍side

『愛される』

ずっとこいつのことを、明るいやつだと思っていた。

心のどこかでは、今まで苦労なんてしてこなかったんだろうな、なんて考えていたこともある。

でも、違った。

守宮は俺より酷い状況下で生きてきたんだと思う。
愛騎:もう比べられるのは懲り懲り、、愛されず育ったからか、家族の中で私がいないものとして扱われたからか、小学校や中学校でも友達なんて1人もできなかった。食事は出されるけれど、ずっと1人での食事だし、五条家なのに質素で、使用人よりも酷い食事を与えられていました。いつしか少量のお金だけを貰って、それで食べるようにもなりました。同じ家には使用人も含めて何人もの人がいるはずなのに、、、1人しかいないみたいでした。
皆、黙って守宮の話を聞く。

最初の方は少しは声を発していたが、もう今では声も出ないほど守宮の境遇に驚き、戸惑い、

そんな過去があったのだと、、自分のことじゃないのに胸が苦しくなってきているのだと思う。
愛騎:耐えられない生活で、私は傑さん、、いえ、夏油傑に言われました。家出をしたらどうだ、と。

相澤:!

愛騎:家出、、何故か私は今までその発想に至らなかった。きっと絶対無理だ、と思っていたから。五条家は警備も硬いし、私が勝手に出て行ったらそれはまたそれで何か言われるから。でも、協力してくれる、、と言われて、かけてみたんです。途中まで難なく進みました。夏油傑と一緒だったら使用人に見られてもおかしく思われなくて、すぐに家の外に出られたんです。

相澤:、、、お前と夏油傑の関係は?

愛騎:唯一の味方でした。いつも慰めてくれる、優しい人です。五条家の箪笥からお金を取り、最小限の荷物をバッグに詰めて出て行ったんです。街を少し歩いていたら、バレないようにと、、髪色を白から茶色に染めてくれました。でも、、裏切られたんです。大量の呪霊が私を襲い、ショックと怪我で意識を失い、気付いたときには記憶喪失になっていました。
『裏切られた』って、、どういうことなんだ?

味方、、だったんだろ?
愛騎:轟くん、、不思議って顔してるね。、、兄の言っていることが本当なら、本物の夏油傑は私じゃなくて兄たちを裏切ったみたい。私を裏切ったのは、その夏油傑になりすました別の人物だったんです。それを聞いて、少し、、ホッとしてるんです。ずっと信じてきた人に、、裏切られていたと思ったら、本当に辛いから。
泣きそうな声で話す守宮。

『これで全部です。』

皆、俯いている。

俺はなんて声をかけたら良いのか、今、必死に探している。

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