土曜日、皆で衣浜高校の文化祭へ来た。
焼きそばと串焼き、クレープにタピオカジュース。校庭と校舎の間の通りには飲食系の屋台が並んでいる。
ボフッ
よそ見をしてぶつかったのは、タキシードを着た私より背の高いふわふわのうさぎだった。
うさぎは会釈をすると持っている看板を私の目の前に出す。
うさぎは奥の棟を指差し、私の手をひいて歩きだす。
聞こえないのかうさぎはそのまま歩き続け、野外ステージに釘付けの皆と逸れてしまう。
A棟にたどり着き、うさぎは私を見てからキョロキョロと周りを見渡す。
聞き覚えのある声に驚いていると、うさぎの後ろから、あの写真の女の子がひょっこり顔を覗かせる。
大きくパッチリとした目で笑顔が可愛いく、サラサラなマッシュルームショートが少しかっこいい。
うさぎの彼は「なるみ」さんの額にチョップをかます。
鳴海さんは写真と同じ満面の笑みを私に向けた。
元気がでそうなキラキラの笑顔を見る度、私の胸はギュッと締め付けられて痛む。
彼は客引きの仕事に戻り、私は鳴海さんと皆を探しながら話した。
私は知らない三人組を指さして鳴海さんから離れた。
人を避けながら歩いていると、目の前はぼやけて雫が頬を伝う。
ドンッ
彼は苦笑しながらセーターの袖で私の涙を拭い、手を引いて歩きだす。
その背中も繋いでる手も、私に向けてくれる優しさも全部が好きで好きで、涙が溢れた。
彼に連れられながら階段を上り、青空の広がる屋上へ出る。
☆
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!