第7話

迷宮の先
1,493
2018/11/15 09:00


 土曜日、皆で衣浜高校の文化祭へ来た。

 焼きそばと串焼き、クレープにタピオカジュース。校庭と校舎の間の通りには飲食系の屋台が並んでいる。


絵美
まず執事喫茶でしょ!
理央
んじゃ、その次バスケ部の出し物ね
希空
希空
えーっと、執事喫茶はA棟二階だね。
A棟ってどこだろう?


     ボフッ


希空
希空
わっ、ごめん……なさ、い


 よそ見をしてぶつかったのは、タキシードを着た私より背の高いふわふわのうさぎだった。


 うさぎは会釈をすると持っている看板を私の目の前に出す。


うさぎ
【お嬢様のお帰りをお待ちしてます。
 執事喫茶2ーC】
希空
希空
あ、私達これから執事喫茶に行くところで、A棟ってどこですか?


 うさぎは奥の棟を指差し、私の手をひいて歩きだす。


希空
希空
え!? あ、ちょっと!
鈴花
連れてってくれるんじゃない?
お願いしようよ
理央
……ねぇねぇ、あの野外ステージでやってるの面白そうじゃない?
絵美
ホントだ! 先に見ていこうよ!
希空
希空
あ、ちょっと待って!
あの、うさぎさん


 聞こえないのかうさぎはそのまま歩き続け、野外ステージに釘付けの皆とはぐれてしまう。


希空
希空
(きぐるみで表情はわからないし、
うさぎなのに動きが淡々としてるけど、……なんだかこの人嬉しそう? 付いていくの危ないかな……)


 A棟にたどり着き、うさぎは私を見てからキョロキョロと周りを見渡す。


希空
希空
友達は野外ステージを見に行っちゃって
うさぎ
そうだったの?
ごめんね、気づかなかった
希空
希空
え、その声……


 聞き覚えのある声に驚いていると、うさぎの後ろから、あの写真の女の子がひょっこり顔を覗かせる。

 大きくパッチリとした目で笑顔が可愛いく、サラサラなマッシュルームショートが少しかっこいい。


???
雪飴、うさぎの格好でナンパ?
女の子困らせるなよー
雪飴
雪飴
ん? なるみ、ナンパなわけないだろ。知り合い連れてきたんだよ
なるみ
雪飴に知り合い!? 
ちゃんと仕事してんじゃん!
えらーい!
雪飴
雪飴
できないと思ってたーみたいな感じもやめろ


 うさぎの彼は「なるみ」さんの額にチョップをかます。


希空
希空
(顔見えないけど、雪飴さんこの人と話すの楽しそう)
希空
希空
雪飴さんだったんだね
雪飴
雪飴
あー、ごめん。きぐるみは喋っちゃいけないと思って。けど、希空がいたからつい
なるみ
のあちゃんっていうの?
希空
希空
あ、桐谷希空です
鳴海
鳴海
私は鳴海凛なるみ りん
よろしくね、希空ちゃん!
雪飴
雪飴
実は希空の友達とはぐれたんだ
鳴海
鳴海
じゃあ私案内するから、
探しに行こうよ!
希空
希空
そんな、せっかくの文化祭なのに邪魔するわけには
鳴海
鳴海
邪魔じゃないって。むしろ、暇してたから話しながら探そ!
そのが楽しいでしょ?


 鳴海さんは写真と同じ満面の笑みを私に向けた。
 元気がでそうなキラキラの笑顔を見る度、私の胸はギュッと締め付けられて痛む。



 彼は客引きの仕事に戻り、私は鳴海さんと皆を探しながら話した。


鳴海
鳴海
へぇー、じゃあ雪飴が希空ちゃんを痴漢から助けたんだ。めずらし〜
希空
希空
珍しいんですか? 私、雪飴さんって優しいイメージなんですけど
鳴海
鳴海
うーん、まあ、あいつは学校じゃいつも一人だよ。人と関わるのが苦手みたい?
希空
希空
鳴海さんはどうやって雪飴さんと?
鳴海
鳴海
一人でいたから話しかけてただけ。放っておけないっていうか、私がお節介焼きだからかなー
希空
希空
……つ、付き合ってるんですか?
鳴海
鳴海
え、私と雪飴がってこと!?
そんなんじゃないよ! 雪飴のことは好きだけど、あ、いや、……私は、今のままで十分だから
希空
希空
(両片思い……、なんだ、やっぱり私が入る隙なんてなかったんだ)
希空
希空
……私だったら
鳴海
鳴海
ん? なにか言った?
希空
希空
あ、友達いました! 
鳴海さん、ありがとうございました
鳴海
鳴海
良かった! またお話しようね。
文化祭楽しんで!


 私は知らない三人組を指さして鳴海さんから離れた。

 人を避けながら歩いていると、目の前はぼやけて雫が頬を伝う。



     ドンッ


雪飴
雪飴
希空、偶然だね。今日はよくぶつかる日なのかな
希空
希空
……雪飴さん
雪飴
雪飴
泣いてるの? なにかあった?
希空
希空
(雪飴さんと鳴海さんは両片思いなんだよ……、なんて言えないなぁ)
希空
希空
(なんで雪飴さんは私に優しくしてくれるんだろう? なんで、鳴海さんが好きなの? なんで……)
雪飴
雪飴
涙止まらないね。……本当は、当番が終わってからずっと希空を探してたんだ。さっき、なんか辛そうに見えたから


 彼は苦笑しながらセーターの袖で私の涙を拭い、手を引いて歩きだす。


 その背中も繋いでる手も、私に向けてくれる優しさも全部が好きで好きで、涙が溢れた。




 彼に連れられながら階段を上り、青空の広がる屋上へ出る。


雪飴
雪飴
ここなら落ち着けるかな?
希空
希空
……聞きたいことが、あるの
雪飴
雪飴
なに?
希空
希空
雪飴さんは
希空
希空
……なんで死にたいと思ったの?







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