腫れた目元がまた涙で濡れる。
空っぽで情けない私を見られたくなくて、私を見る彼の表情を見たくなくて、ゆっくりと背を向けた。
彼は私の横を通りすぎ、塗装の剥げた柵に手をつく。
振り向いた彼は、アンニュイな微笑みを浮かべた。
私はゆっくり、一歩ずつ彼に歩み寄る。
どんどん頭の中は真っ白になっていく。
彼の手をとり、見上げようとしたとき。
彼の言葉は私の胸を鷲掴むように締め付ける。
それと同時にきつく握り返してくる彼の手は、密かに震えていた。
彼は手を強く握ったまま、私の肩に顔を埋める。
吐息が首元をかすめ、緊張のあまり身動きがとれない。
そう答えると彼は顔を上げ、いたずらを失敗したような苦笑を浮かべる。
彼の手が緩められ、私は手をはなして柵の向こう側に立つ。
そう手を差し伸べると、あの悲しげな微笑みが私に向けられる。
青空の下でも儚げで美しいその笑みが、私は大好きかもしれない。
彼は柵をまたぎ、私の横に並ぶ。
また手を繋いで瞳を見つめると、彼は額を合わせてくる。
深呼吸を終えると、唇に柔らかい感触。
彼の額は離れていき、何が起きたのかわからず目を開ける。
☆
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。