だめ! 雪飴を救えるのは希空ちゃんだけなの! ……お願い、諦めないで
……なにを、言ってるんですか
そんなわけない。
だって、彼が求めてるのは、貴方の言葉なのに!
苛立つ気持ちが湧き上がるが、彼女の瞳から流れ続ける涙が美しく、見惚れてしまった。
彼女は私の手を放し、ベッドの横に置かれた丸椅子に座る。
雪飴はね、希空ちゃんが好きなんだよ
えっ
私、見ちゃったんだ。泣いてる希空ちゃんと、それを慰めてる雪飴を
あんなに誰かを大切そうにしてる雪飴、初めて見た
それはっ! 雪飴さんが気遣ってくれただけで
それだけ、かな? 私には好きな子を守ろうとしてるように見えた
……勘違いですよ
それが勘違いでもいいの。大事なのは、希空ちゃんに諦めてほしくないってこと
彼女は、慈愛に満ちた眼差しで彼を見つめる。
けれど、その瞳は煌めく湖面のように潤い、今にも、また涙が溢れてしまいそうだった。
じゃあ、鳴海さんは雪飴さんを……、恋も命も、諦めるんですか?
諦めないよ! ただ、私は見守ることしかできないなぁって
そんなの諦めてるのと同じです。私に全部押し付けようとしてませんか!?
押し付けるなんて、そんな言い方っ!
……私にいつでも相談にのるって言ったのは、こういうことですか?
違うよ! それは希空ちゃんが本当に心配で……、私になにかできたらって
じゃあ、なんで雪飴さんのことが好きなのに、何もできないなんてっ――
してきたよ! だから、諦めずに話しかけ続けて仲良くなれたの! 雪飴と一番仲がいいのは私だって自信もある!
けど、最初から感じてた雪飴の暗い部分も悩みも話してくれることは一度もなくて。そのうち、見えない壁をまた感じるようになって……
(鳴海さんをいつか傷つけてしまうのが怖くて、自分から離れようとしたんだよね? 雪飴さん)
彼のか細い寝息が聞こえてくる。
穏やかな寝顔は、彼の優しい微笑みを思い出させた。
私と彼女がここまで悩み彼のことを思っているのに、当の本人は何も知らず安らかに眠っている。
そんな時に希空ちゃんと会った。それで、二人は屋上から……。
ねぇ、私に何ができるの?
……な、何もできないように、見えるかもしれないです。けど!
やめて、そんな慰め……。もうこれ以上、雪飴のことで傷つきたくない
それなら……、やっぱり、諦めちゃだめです。さっき、私に言ってくれたじゃないですか
こんなに雪飴さんを思って心を痛めてる鳴海さんが放っておかれるなんて許しちゃだめです
……それは
雪飴さんが目を覚ましたら、平手打ちしましょう!
え!?
思ったんです。雪飴さんはどうすれば思い直してくれるか
……え、それで平手打ち?
あ! 本当にするわけじゃないですよ。けど、ちゃんと雪飴さんの心に響く何かがないといけないんです
ぼやけていた世界が、すっきりと鮮明に見えた気がした。
私と鳴海さんが叩いたら響くかもしれないじゃないですか
……ふふふっ
え?
あははっ、希空ちゃん意外と男前?
え、え? なんで笑うんですか!
ふふふ……、そうだね。一発決めてやろっか
彼女は彼の寝顔を見つめて微笑みながら、そう呟いた。
けど、その微笑みは、無理をしている空元気なものだと、私にはすぐわかった。
私が今までしてきたような、本心を隠した笑顔。
……鳴海さ――
その時、私が包み込んでいる彼の手が、ピクリと動いた。
☆
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。