第8話

空っぽの青い空
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2018/11/22 09:00


 なんで死にたいか。
 そんな質問に、彼は悲しそうに微笑んだ。


雪飴
雪飴
……俺は、女性を傷つけたくないし大切にしたい
希空
希空
うん。雪飴さん、そんな感じがする
雪飴
雪飴
……けど、それは俺にはできない


 彼は塔屋の壁際に座って空を見上げる。


雪飴
雪飴
……俺の父親は母さんをとても愛してる人だったんだ。けど、いつからか少しずつ変わって、あいつは母さんを家から一歩も出さず部屋に閉じ込めた。
雪飴
雪飴
夜になると聞こえるんだ。母さんの静かな悲鳴が。……俺は、何もできずに聞いているだけで……
雪飴
雪飴
母さんが部屋から逃げ出したとき、声をかけたけど、俺に目もくれず母さんはそのまま……
雪飴
雪飴
ベランダから飛び降りた
希空
希空
っ……
雪飴
雪飴
俺は、そこまで母さんを追い詰めたあいつを許さないし、……絶対、あいつみたいにはなりたくない


 彼はそこで言葉につまり、手を握りしめて俯く。


雪飴
雪飴
……そう心に決めていたのに、誰かを好きになる思いが強くなるたびに、あんな奴の気持ちがわかってきてね
雪飴
雪飴
そばにいてほしい、どこにも行かないでほしいって、……蓋をしようとしても気持ちが溢れ出しそうになる
雪飴
雪飴
結局、俺はあいつと同じで……。
だから、俺は自分が嫌いだ


 彼がどんな言葉を必要としているのか、考えても考えても出てこない。


 それでも、彼の力になりたいという気持ちは変わらなかった。


希空
希空
(私は、雪飴さんに夕日みたいだって言ってもらえて嬉しかった。あんな風にきれいで、誰かを包み込めるような温かい自分になれたらいいなって、元気をもらえた)


 私がしてもらったように、目の前で震えている彼の体を、そっと抱きしめる。


希空
希空
……雪飴さんは、お父さんとは違う。傷つけないように気をつけて、衝動を抑えてるんだから……同じなんかじゃないよ
希空
希空
私は今まで、雪飴さんの優しさに救われてきたもの。きっと、雪飴さんの好きな人だって……、一人で抱え込まないでほしいって思ってる


 必死に彼に伝えたいことを口にするが、それはどれも綺麗事に聞こえた。

 これではどんな言葉を紡いでも彼には届かない。


希空
希空
(だめ、雪飴さんを大切に思っているはずなのに、私、雪飴さんにどう思われてしまうかってことばかり考えて……)


 雲ひとつない青すぎる空っぽの空が、まるで私のようだと皮肉にもそう思った。


 彼の手は私の肩を掴み、ゆっくりと距離をとる。


雪飴
雪飴
ありがとう、希空。けど、いいんだ。これは俺のために選んだ選択だから
希空
希空
(拒絶……された)
雪飴
雪飴
……よかったら、
希空の理由も教えてよ
希空
希空
え、……私?
雪飴
雪飴
俺だって希空の理由は気になってるよ
希空
希空
私は……、人の顔色ばかり伺って自分の気持ちも言えずにいたら、自分が……わからなくなっちゃって。
希空
希空
もう、何がなんだかわからなくて……このまま生き続けるなんて、……生きる意味なんて、全部わからない


 今まで私がどれだけ空っぽのまま生きてきたかが、証明されてしまった。

 大切で大好きな人を支えることさえ……。


希空
希空
(私には、何もできないんだ……)







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