朝から体が、わたあめで包まれているようにふわふわしている。熱があるのかと思ったけど、体がだるいわけではない。
むしろ、気分はいい。
授業中は昨日の出来事を思い出し、ぼーっとしていた。昼休みになっても頭は働こうとせず、友達の話し声を子守唄に寝てしまおうか考えていると。
教室を出て先生についていくと、生徒指導室へたどり着く。
相手しか見えないような距離で置かれている机と椅子。自然と背筋が伸び、手に冷や汗をかいてしまう。
耳障りな音をたてながら先生は部屋を出ていった。乱暴に閉められたドアは、勢いがよすぎたせいで少し開いている。
その隙間から見える景色も聞こえる音も、全てが私から遠のいている気がした。
足は無意識に動き出し、気がつくと図書室にいた。
静寂とした部屋の中で、誰かが本のページをめくる音だけが聞こえる。
音はカウンターの方から聞こえ、そこには私のクラスの図書委員がいた。
そういって、奥村さんは背を向けカウンターの方へ戻っていった。
私は本のタイトルを一冊一冊指を添えて確かめていく。
奥村さんは慣れた手つきで貸出作業を終え、私に本を差し出す。
それを受け取ろうとしたとき。
ゴトンッ
本はカウンターの上に落ちた。
彼や本、心中という言葉が私の中で焦りに変換されていく。頭の中はぐちゃぐちゃにかき混ぜられ、何から考えればいいのか、何を考えればいいのか、もうわからない。
ハッと我にかえり奥村さんを見ると、とても心配そうな、疑うような目を向けられていた。
ああ、こんな時でも私は人の顔色をうかがってしまう。先生のときだって、反論さえできずに言われたことを大人しく聞くだけ……。
なんで……。
図書室を出て廊下を歩きながら、私は手の中の本を見つめる。「人間失格」、その言葉は私の心に強く突き刺さる。
ふわふわとした心地よさは、もうなくなっていた。
彼に会いたい。
☆
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。