甘味処のあと、
あなたの着物をあつらえるために、
呉服屋に入った。
色とりどりの反物の中から
生地を選ぶあなたはというと…
ゆうに、2時間は経過していた。
早く帰りたかったのだが。
正直、柄のことは
よくわからなかった。
だが、俺だけに向けられる
あなたのとびきりの笑顔を、
こうして眺めるのも…
あなたが選んだ反物は、
かんざしと揃いの、桔梗の花だった。
──永遠の愛
という意味らしい。
それでそんなに時間をかけて
選んでいたのか。
あなた…
はにかむあなたが…
本当に愛おしくて…
一刻も早く、抱きたい。
想いが溢れて、止まらなかった。
ようやく屋敷に戻ってきたのは
陽が傾き始めた頃だった。
あなたが、にっこりと笑った。
あなたと、縁側に腰をかけて
お茶をすすった。
めずらしく、あなたが甘えてきた。
縁側に並んで座る俺の肩に、
頭を乗せてきたのだ。
俺は、あなたの頭を抱え
ひざに寝かせた。
俺のひざを枕にしたあなたが、
下から見上げてくる。
なんてつぶらな瞳…。
もう…限界だ。
俺は身をかがめて、そっとあなたに
口づけを落とした。
そして、あなたを抱き上げると
部屋へと連れて行き、ふすまを閉めた。
…外はまだ陽が高い。
だが、これから抱く──
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。