第10話

小さな奇跡
126
2019/11/30 05:36
三人で話しながら自転車を走らせ、目的地のゲーセンに到着。
ぶんちゃん
あなた、どう?やっぱり高校生いっぱいいるね
私
うん……でも、いないみたい
ぶんちゃんとあたりを見渡してみるも、それらしき人は見あたらない。
とりあえず一周してみたけれど、やっぱり〝秋山〟はいなかった。
あーずー
いるわけないか……
そんな漫画やドラマみたいな偶然、あるわけない。
そんなことは……ちゃんとわかっていた。
あーずー
わかんないよ、あとから来るかも。もうちょっと様子見よう?
私
うん……ありがとね
なんだかんだ言って優しいあーずーが、大きな目を細めて微笑んだ。
暇つぶしも兼ねて、あたしたちはプリクラを撮ったり、U F Oキャッチャーをしたり。
気づくと二時間以上たっていて、短い針はもう〝6〟を過ぎていた。
あーずー
あなた、ごめん……あたし、もう帰んなきゃ
私
あー……そうだよね。じゃあ帰ろ。付き合わせちゃってごめんね
あーずーの家は門限が厳しい。どうせ会えるわけがないのに、付き合わせちゃって悪かったな……。
あーずー
ううん。あたしこそ、ごめんね
私
あなたに付き合ってくれてありがと
そう言いながらもまだ期待して、店内を見渡してしまう自分がバカみたいだ。あきらめが悪いにもほどがある。
あたし、こんなんだったっけ。
気づかないようにため息をつき、ふたりを小走りで追いかけようとした時だった。
出入口の透明なドアが両側に動き、そこに学ランを着た人が三人入ってきた。そのまん中の人は……。
ぶんちゃん
あ……あっ、あの人!
私
えっ?
あの人……そう、そこには〝秋山〟がいた。
奇跡が起きたと、本気で思った。
あーずー
嘘!秋山いたの!?
あーずーがあたしに耳打ちをする。あたしは何度もうなずいた。ぶんちゃんは「ありえない」とでも言いたそうに、目を丸くしていた。
あーずー
奥の方に行っちゃうよ!早く追いかけなきゃ!
背中をあーずーに押されて、硬直していたあたしは我に返り、一歩踏みだした。
私
……ちょ……ちょっと待っててっ
今しかチャンスはない。話しかけなきゃ。
ありえないと思っていた。
それでも期待せずにはいられなかった、小さな奇跡。
このチャンスを逃すわけにはいかない。
恐るおそる、〝秋山〟の後ろまで歩みよる。
大きく深呼吸をして、勇気と声を振りしぼった。
私
あの……、秋山……さん
声を振りしぼったはずなのに、あたしってこんなに声小さかったっけと思った。
心臓が破裂してしまうんじゃないかと思うほどに、激しく波打つ。
秋山英紀
秋山英紀
えっ?えっと……ごめん、誰だっけ?なんで、名前……
振り向いた〝秋山〟はすごく驚いて、大きな目をさらに見開いた。
そりゃあ、知らない人から急に話しかけられたら、誰だって驚くよね。
あたし自身、名前を呼んだことに驚いている。
積極的な性格がこんなところで役に立つなんて。
私
あの、こないだ体験入学で……
なんて言えばいいかわからない。
本当に混乱していて、頭が真っ白だった。肩が小さくふるえる。
秋山英紀
秋山英紀
体験入学……ああ、うまかった子だ!よく俺のことを覚えていたね
……嘘。女の子なんてたくさんいたのに、覚えていてくれた。
私
えっと……覚えていてくれたんですか?
鼓動は速まる一方だ。
生まれて初めて、緊張で声までふるえてしまう。目は自分でもわかるほど泳いでいるし、また顔、真っ赤かも……。
こんな自分は本当に初めてだった。
秋山英紀
秋山英紀
うん。だって本当にうまかったし、ひとりだけめっちゃ茶髪だったし
そういえばそうだ。〝茶髪のうまかった子〟っていうイメージは微妙だけど、それでもいいや。
だって、秋山……さんが、覚えていてくれた。
秋山英紀
秋山英紀
第一希望、うちの高校?
私
あ、はいっ
勢いで答えてしまい、一瞬ドキッとした。
でも、「違います」なんて言いたくない。
忘れられたくない。少しでも印象に残りたい。
秋山英紀
秋山英紀
そっか。うちの高校、誰でも入れるから安心しなね
目を細め、にっこりと笑う秋山さん。
笑うと少し幼くなって、もっと可愛い。
秋山英紀
秋山英紀
待ってるからさ。じゃあ、またね
秋山さんは手を振りながら、友達と一緒に奥のほうへと歩いていった。
ほんの数分だったけど、今、秋山さんと話したんだよね……?
一気にテンションが上がったあたしは、大急ぎで近くに待機しているあーずーとぶんちゃんのもとへ走る。
私
ねぇどうしよう!秋山さん、あなたのこと覚えててくれたよ!
ふたりに抱きつき、人目も気にせずピョンピョンと飛び跳ねた。
あーずー
すごいじゃん、よかったねぇ!で、連絡先聞いた?
あたしの頭をなでながら、にっこりと微笑むあーずー。
私
……あれ……忘れてた
話すことに必死だったから。
ぶんちゃん
意味ないじゃん
ふたりの言う通りだ。せっかく会えたのに、こんなんじゃ意味がない。
あーずー
まぁ偶然でも会えてよかったね。奇跡じゃん
……奇跡、か。
私
そうだよね……
本当に会えるなんて夢みたいだ。まだ心臓がうるさい。
それに、話しちゃったんだよね?
でもきっと、〝奇跡〟って一度だけ。せっかくその奇跡が起きたのに、無駄にしちゃった。
でも、秋山さん言ったんだ。
〝待ってるから〟って。
〝またね〟って。
たったひと言でさえ特別に感じてしまう。
〝また会えるよ〟って、言われたみたいだった。

プリ小説オーディオドラマ