つい何時間か前に通ったばかりの道。それなのに、帰りは懐かしさまで感じるほど久しぶりな気がした。
行きと同様、自転車の荷台にまたがり、ぶんちゃんの学ランをしつこく引っ張りながら言う。
朝よりは暖かいけれど、やっぱり膝がヒリヒリする。
……やっぱりバレてる?さすがぶんちゃん。
やっぱり。〝秋山〟にもバレてたかな……。
引っ張る力を弱め、口を尖らせながらうつむいた。
まだ少し顔がほてっている。
うつむいたまま、ぶんちゃんの小さな背中に額をあてる。
後ろにいるから表情は見えないけど、ぶんちゃんのことだから、優しく微笑んでいると思った。ぶんちゃんは本当に優しい子だから。
家が近いわけでも、親同士の仲がいいわけでもないふたり。けれど、小学校の頃からなにをするにも一緒で、いつも隣にはぶんちゃんがいた。
今ズキって音しなかった?
図星をつかれて、言い訳すら浮かばない。
坂道を下りきったところで赤信号に引っかかり、突然止まった勢いで、あたしはぶんちゃんの背中に軽く頭突きをした。
前向きなぶんちゃんに、照れかくしは通用しないらしい。
信号の色が変わると、少し髪が揺れた。
『まともな恋愛しなさい』
ぶんちゃんの口癖。そのひと言だけで、たくさんの想いが伝わってくる。
心配してくれてありがとう。
〝秋山〟と同じ高校に行きたい。
もう一度、会いたい。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。