第5話

出会い
190
2019/11/03 14:03
初めて来る『高校』に戸惑っていると、部活で何度か来たことがあるらしいぶんちゃんが、体育館までスムーズに案内してくれた。
先生
それでは引率の先生に従い、校内を見学してください。
無駄としか思えない長い説明がようやく終わった。
先生に連れられ、説明を受けながら校内を回る。
見渡す限り、目に入るのは同じく体験入学に来た中学生ばかりで、高校生はいない様子だった。
私
つーか、誰もいないじゃん!これじゃ、かっこいい人探せないよ。
ぶんちゃんの学ランの袖を強引に引っ張り、口を尖らせながら言う。
ぶんちゃん
高校生は休みみたいだね。まぁ土曜日だし。
私
そっかぁ……
引っ張る力を弱めて少し落ち込んだ。
あたしを含めていろんな中学から来た1クラス分ほどの団体は、みんなワイワイと騒いでいる。
目的を失ったあたしには、なにがそんなに楽しいのか理解不能だ。
ぶんちゃん
あ。でも、ことあとの実習は2年生が教えてくれるらしいよ。
私
ほんと?やった!
微笑むぶんちゃんに、あたしは満面の笑みで答えた。
中学校とは違い、広くて大きな校内。
方向音痴なあたしにとっては複雑すぎるコースを歩き、昇降口へと繋がる階段をおりた。
そして、本館から少し離れた場所にある、これまた大きな建物の中へと足を運んだ。
いよいよ、体験実習の時間が始まる。
私
……なんかめんどくさくなってきた。早く帰りたいです。
ぶんちゃん
やる前から飽きんなよ!失礼なこと言ってないで、おとなしくしてなさい。
ぶんちゃんの特技はあたしをなだめること。
親や友達に『万年反抗期』なんて言われるあたしでも、ぶんちゃんの前では不思議と素直になれるのだ。
……でも、意外と楽しい。
数分後、あたしは先生に教わりながら、別のテーブルにいるぶんちゃんのことも忘れて、順調に作業を進めていた。いくつかの部品を組み合わせて、簡単な機会を組み立てる実習。
先生
秋山、ちょっとこっち手伝ってくれ!
先生が誰かに手招きをする。
ひとつの机に中学生が6人、それに対して指導する人はひとり。
どう考えても人手が足りない。
でも興味がないから、あたしはすぐ作業に戻った。
かっこいい人を探す、という目的は、あまりに楽しい実習のおかげですっかり頭から抜けていた。
むしろ邪魔されたくない。
秋山英紀
秋山英紀
あれ?先生、この子うまいじゃん。
ふと、頭上で声がした。
うまい?
なかなかいいこと言うじゃん、秋山。
秋山英紀
秋山英紀
この実習できる子って珍しくない?しかも女の子だし。才能あんじゃん
ずいぶんと大げさにほめられ、いったん手を止める。
ほめ上手な人だなぁ。どんな人なのか、なんとなく気になり、ふと顔を上げた。
〝秋山〟と目が合う。
……目が綺麗だと思った。
くっきり二重の大きな目に高い鼻。アヒル口っていうのかな、口の両端がクイッと上がっていて、とても可愛らしい顔。
無造作にセットされた、少し茶色がかった短髪。
背が高くて細身がちなのに、まくった袖から見える腕には、しっかりと筋肉がついていた。
あたしが思い描いていた理想の彼氏像、そのものだった。

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