終始、アイツの前で複雑な顔をしていたから、
絶対に、聞かれるだろうなって。
覚悟してた。
彼になら、言える。
それに、貸すときだけじゃなくて、
返すときにも気分が悪くなった。
コイツといると、私の大嫌いな冷やかしに会う。
一発殴って逃げてやりたかった。
その時に、彼は私の前に立って。
格好良かった。
お伽噺の救世主みたいに、格好良かった。
その言葉で、涼も、
って、戻っていく。
ごめんね、って。
何も知らないくせに、何も分からないくせに、
謝るな、偽善者。
こんな格好悪い姿見られて、
多分、涼のことを聞かれると思った。
優しいからこそ、気になるはず。
大丈夫、と、拳に力を入れた時だった。
その言葉を聞いて、拳から、ふっと力が抜けた。
何も、聞かないの?
どうして貴方はそんなに気を使ってくれるの?
気付いたら、口元が緩んで、本音が出ていた。
でも、言ってすぐに気付いた。
私、なんて恥ずかしいことを言ったんだ…!!
す、好きって言うなんて、何年ぶり?
というか10年位口に出してない…!
みるみる内に、耳も、頬も、
何もかも、熱くなって、
きっと赤くなってるのなんて、容易に想像出来た。
彼は、必死に身振り手振りで誤魔化して、
弁解する私に、
〝分かってるよ〟
って、優しく言ってくれた。
私は、どれだけ彼に優しくしてもらえば良いんだ。
甘えすぎだよね、きっと。
それでも彼の隣に居て、
彼と他愛の無い話をしていたい、
というのは、私の我儘になってしまうだろうな。
あれ、こんな感情、どこかで、読んだ気がする。
そうだ、この前の───────
恋愛──小説─────。
……まさか、まさかだけど。
私、かっ、香川くんに…
恋を…してしまったのだろうか…。
しばらく、何も頭に入ってこなかった。
それなのに、彼は平気そう…
いや、当たり前だ。
これが〝片想い〟…なんだよね。
そうか、
彼と蝶矢さんが話してるのを見て、
羨ましかったんだ。
そして、嫉妬を…してたんだ。
私もあんなに仲良くなれたらな。
彼と蝶矢さんは、どういう関係なのだろう。
とても、親しそうだった。
あぁ、頭が、パンクしそうだ…
恋、そうか、恋…。
分からない、知らない、は。
少し、怖い気もする────────
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。