彼女は、強かった。
俺に対しても、誰に対しても。
強く、怯まず、立ち向かう。
その掛ける言葉は、厳しくとも、本当のことで。
それって、心の芯から優しくないと、
出来ないことじゃない?
次こうなるからしない。
後で影で言われるから、
いじめられたらどうしよう。
なんてことはその次に考えることで。
思ったことを言っていた。
その姿が、めちゃめちゃカッコ良くて。
皆は上から目線だ、言葉が強すぎる、
なんでアイツから言われなきゃいけない。
って言うけれど、
真面目って、すげぇカッコいいと思うんだ。
見てないとこでも頑張って、
自分の仕事を聞く前に、探す。
そういうことって、当たり前で、簡単だけど、
誰もが忘れてしまうことで。
その姿をなぜ笑う?
なぜ批判する?
そんなの、彼女よりしっかりやってから言えよ。
臆病者、って言ってやりたかったけど、
それは俺も同じだ。
思っていても、口に出せない。
いつもならスラスラと出てくる言葉だって、
彼女の前じゃ、全く機能しない。
俺が、彼女を追いかけて門の外に出ると、
知らぬ男に腕を掴まれていて。
気付いたら声を掛けて、助けていた。
彼女は、なぜ助けるんだ、みたいな顔してたけど。
好きな女の子を助けるなんて、
当たり前の当たり前だよ?
震える手と口を隠すように、
「大丈夫」だというけれど。
無理があるよ、彩夏ちゃん。
それでも笑顔を作ろうとする君に、
涙すら出かけた。
だから、君に。
俺は君に、殻を破れと助けてもらったから。
今度は、俺の番だね。
精一杯、好きに笑ってほしい。
純粋に願うこと。
例えその隣にいるのが俺じゃなかったとして、
それでも、笑顔なら。
そして、驚くべきことがあった。
かの有名な脱力系イケメンの香川くんと、彩夏ちゃんが、
いとこだというのだから。
い、いとこ!!
何となくその距離感も分からなくない。
少し安心して、恋を出来ると思った。
もしかしたら、君を笑顔にする人は、
君の隣に居れる人が、俺だって、
良いのかもしれないと。
気が抜けた、凄く。
嬉しくてだろうけど。
きっと〝好き〟だって伝えたら、
君は引くかな。
〝気持ち悪い〟って、吐き捨てられるかな。
いや、もしかしたら少し喜んでくれるかも!
あぁぁ、とにかく彩夏ちゃんのお相手が居ないことが分かって、
めちゃめちゃ頑張れる気がしてきた!!
どれだけ拒否されたって、きっと君は優しいから。
観念してくれるまでやるからね!
当たって砕けろなんて言うけれど、
当たって、砕けて、また拾って、くっ付けて。
また当たれば良い!
砕けることが出来るなら、拾うことも出来る。
いつか君が、俺を〝好き〟と言ってくれるまで。
我儘で、ごめんね。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!