第19話

17話
79
2020/03/18 03:00
パタンッ
一人、自分の部屋に、乾いた本を閉じた音が響く。
戸関 叶子
戸関 叶子
…はぁ。
溜め息を溢しつつも、本をしまっていると、
ノックの音がした。
戸関 叶子
戸関 叶子
…はい。
お母さん
お母さん
あ、叶子?ちゃんと勉強してる?
戸関 叶子
戸関 叶子
…うん、してるから。
お母さん
お母さん
あらそう、買い物行ってくるから、
留守番お願いね。
戸関 叶子
戸関 叶子
うん…。


階段の降りる音、玄関の扉が閉まる音。


聞き終えた頃には、拳が強く握りしめられていた。
母があんなこと聞いてくるのは、


ごく一般的に心配しているからなんかじゃない。


どうせ、出来る兄と比べて、


私が劣っているのを、心配しているからだ。


私だって、それなりに頑張ってるつもりなのに。
きっと、それなりじゃ駄目なんだろうけど。
それに加えて、父は母よりも厳しい。


私がどれだけ良い点数を取ろうが、


関係なく、意味もなく怒る。


〝もっと〟〝兄より〟〝言い訳は聞かない〟


耳が痛くなる程聞いてきた。


確かに、兄よりも勉強は出来ない。


それでも、追い付くために必死に勉強していた。
でも、兄は〝天才〟だから。


生まれもって持っている力に、


『努力』なんかが勝てる訳無かった。
そこからは、もう。


諦めた。


笑顔も、何もかも。


気付いたら失っていたから。
その気付いた頃には、軽い鬱病だったと思う。


思春期だから。


そんな理由で片付けてほしくなかった。


誰かに認めてもらいたかった。


少しでも良いから、褒めてほしかった。


お世辞や、繕ったものなんかじゃなくて。
謝らなくて良い。


泣かなくても良い。


その代わり、沢山褒めて。


私だって、一人の女子高校生だよ。


心だって、プライドだってある。
それを冷たいなんて言わないで。


話しかけても来ない人に言われたくなんかない。
戸関 叶子
戸関 叶子
っ…。もう…誰も…。
香川 立来
香川 立来
カッコいい。
香川 立来
香川 立来
嬉しいよ。
香川 立来
香川 立来
素直だなぁ。
香川 立来
香川 立来
何か言った?
戸関 叶子
戸関 叶子
─────!
そうでも、無いかもしれない。


居るかもしれない。


私を、認めてくれる人が。


私を、褒めてくれる人が。
優しい彼は、誰にでも言うかもしれない。


それでも構わない。


心から言ってくれてるのが分かる。


なんだか暖かくなって、気分が良くなる。
伝えられる…かな。
嘘を吐いたって、避けてみようとしても、


彼には無駄なことだったから。


「良かった。」と、笑う貴方に、


私は一つ、決心したから。


初めて、思えた。


好きですと、伝えたいから。
断られても良い。


感謝を伝えられれば。


それで良い。


元から、あんな素敵な人とお付き合いなんて、


出来る訳がない。
いや、きっと断られてしまう。
当たって砕けよう。


それでも、構わない。
駄目かな、香川くん。
ごめんね、ありがとう。


好きです。





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