第21話

過去
258
2021/10/20 09:00
私は自分がどんな人間だったかは覚えていません。
人間だった時の名前も、忘れてしまいました。
ただ覚えているのは、私の家が無惨に襲われた時に、なんの理由もなく、私は鬼になったということだけです。
「『鈴鹿童子』、お前に私の側にいる権利を与えてやろう。」
すぐにわかりました。私はこの男に気に入られた、そう、無惨に…。
「鈴鹿童子」という名前をもらった私は、鬼の本能に任せて生きていました。
腹がすいたときに人を食い、村を壊し、何人もの鬼殺隊の隊士達を殺しました。
「我は鬼、鬼でいれば生きていられる。鬼でいることが正しい生き方。我は正しく生きるのだ。」
そんなある日、私はあの男に出会いました。あの最強の鬼殺隊、縁壱に…。
結果は惨敗でした。私は戦いの中で沢山の傷を負いました。
命辛々私はなんとか逃げ切りました。どこかで適当な人を食おうと思った時です。
「おや?こんなところに……。」
私の前に現れたのは老婆でした。
これは好都合だ、そう思い私は老婆を食らおうとした時です。
老婆は、いきなり私を抱きしめました。
「ああ、愛しい娘よ、ようやく帰ってきてくれたのかい。」
どうやら老婆は、私を数年前にいなくなった娘と勘違いしていたようです。
私はますます好都合だと思いました。傷が癒えるまで、老婆のもとに匿ってもらおう、そしてそのついでに食ってしまおうと…。私は適当に話を合わせ、老婆の家に行きました。
老婆は朝早くからどこかに出て行っていました。
私は質素な家の中で、ただ光を避けながら老婆の帰りを待っていました。
そして少量の食事をもらい、夜は人を食いにいく…その繰り返しです。
「ほれっ、朝だよとっとと起きな!」
「あと5分寝かせてくれよ!」
「なんじゃその口のきき方は!いい加減『お母さん』と呼ばんかい!」
「いちいち説教臭いんだよ!そんな顔ごなしに言って誰が納得するか!」
色々と厳しいお方でしたが、家族のように接してくれるその姿に、私は段々と心を許していきました。
「すまんねぇ、今日もこれだけしか…。」
老婆は、数少ない食料を私に差し出しました。
「まあ気にするな、世の中不景気で金を作るのも一苦労だろう。」
「じゃが…。」
「あ、そうだいいこと思いついた。確か近くに町があったよな、我がそこにいって股の一つでも開けば馬鹿な男どもが金を……」
パァン!
老婆は、私に平手打ちをしました。
「何すんだよ!」
「馬鹿なこと言うんじゃないよ、自分の体をなんだと思ってるんじゃ。」
「我はお前のために……」
「お前は怪我人なんだよ…、お願いだから、自分のことをもっと大事にしておくれ…。」
自分を心配してくれていること、鬼である私の心にはなかった何かが込み上げてくるのです。
私は、本当に正しく生きているのだろうか、老婆のように優しく生きることが正しいのだろうか…。
ある善人は、子供を守ろうとして鬼に殺された。
ある悪人は、人を食って鬼殺隊に殺された。
死ぬ者は、間違った生き方をした者だ。
本当に、そうなのでしょうか…。
私は、ずっと考え続けました。
ある日…
いつになっても老婆は帰ってきません。そう遠くに行っているのだろうと、私はあたりを探しに行きました。
探している内に、私は街へと降りて行きました。
街の門の前まで来たとき、
門の上にある高台から声が聞こえてきたのです。
「…何をしていた言え。」
それは若い男性の声でした。
「…この髪を抜いてな、この髪を抜いてな、髪にしようと思ったのじゃ。」
次に聞こえてきたのは、あの老婆の声でした。
「………では、己が追い剥ぎをしようと、恨むまいな。」
ドッ!
大きな物音が聞こえ、上から人が降ってきました。
老婆です。
老婆はあの男に突き落とされたのです。
例の男は、すぐにどこかへと去って行きました。
「ばあさん、ばあさん、しっかりしろ!くそっ、あいつっ!!」
「いいんじゃ、全てはわしが悪いんじゃから…。……のう、ゆきずりのお方。」
老婆は、私が娘ではないことに気づいていました
「わしはもうダメじゃ、バチが当たったんじゃ。…すまんが最期にわしの後悔を聞いてくれんか…?」
「わしは、1人の人を騙してしまった。自分の娘と偽って…。」
老婆は、何年も前に家族を失い、以来生きるためにここに足を運び、死人を貪り金に変えてきました。しかし…
「そんな中、お前さんと会ったのじゃ。」
「わしの娘と瓜二つで、家に連れて帰った。最初は一晩止めるだけじゃったが、次第に愛着が湧いてしまっての…おこがましくも願ってしまった、すがってしまった。もう一度、家族ができたと…。」
「お前さんには迷惑をかけた。」
違います。
「わしのような外道の戯言に付き合わせてしまって…。」
違います。それは私の方です。騙したのも、利用していたのも、迷惑をかけたのも、そして…
愛をくれたのも……
「死なないでくれ…我は、まだお前と一緒にいたいんだ…。」
老婆は私の腕の中で息絶えました。
老婆は正しく生きたのでしょうか。なら、何故死んでしまった?悪いことをしてしまったから?
老婆はどうしたら助かった?
「ああ……そうか…。」
私は気付きました。
どれだけ正しく生きようとしても、いつかは誰かに不平等に殺される、なら、私はどう生きるべきなのだろうか…?
「久しいな、鈴鹿童子。」
そこに再び、縁壱が現れました。
「お前か…。」
私はもう、戦う気はありませんでした。
「どうした、反撃せねばお前の頸を斬り落とすぞ。」
「もういい…、我はもう、わからなくなった。」
「なあ、最期に一つ聴きたい。」
縁壱は刀を下ろしました。私の話を聞いてくれると言うのです。
「我は、どう生きればよかった…?」
私の質問に、縁壱は答えませんでした。
そのかわり…
ズバッ!
縁壱は、私の左腕を切り落としました。
「自分で答えを見つけよ。」
そう、縁壱は言いました。

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