第3話

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2022/12/05 08:10
失礼なこと聞きますけどと乾さんは前置きを述べて覚悟を決めたような顔で私に言った。私は何のことかわからなかった。
橘花さんって今、公園に住んでますか?
あぁ、そのことかと何故かすんなり受け入れられて、むしろ笑えてきた。
あなた
ええ。家出したんで!後、苗字にさん付けは堅苦しいので呼び捨てでどうぞ!
元気よく答える。私は笑いを堪えるのに必死だった。客観的に見てみるとさらに笑えてくる。ちらっと乾さんの顔を見ると驚きの表情でいっぱいだった。
あなた
未成年だと、アパートも借りれないし、ホテルにも泊まれないんで野宿するしかないんです
やっぱりどこか気の抜けている乾さんに追い討ちをかけるようにではないが続けて私は話す。
あなた
元々親とソリが合わなくていつか家出してやろうと思って中学卒業してからバイト始めてお金を貯めてそれでコツコツ準備を進めて大体1週間前に家出してきた次第です。結構楽しいですよ?親からの束縛から逃げるの
私は自分の言っていることにまた笑いそうになった。
 でもすぐに沈黙は訪れる。その沈黙の間、コーヒーを啜る音と紅茶を啜る音が店内に響いて物悲しい空気に拍車をかけた。
ちょっと電話してくるね
そう言って乾さんは席を立った。私は久しぶりに喋った余韻に浸りつつ、カバンからスケッチブックと筆箱を出した。そして食べ終わったケーキの皿をよけて何となく輪郭をとる。久しぶりに男性でも描こうかとさっきの乾さんの顔を思い出して線をつなげていく。
サリサリと画用紙とシャーペンが擦れ合う音がする。あの家で自室にこもって夜にひたすら描いていた時を思い出す。
あなたの下の名前ちゃん?家出したならうち来ませんか?
急な声かけと提案でシャーペンをカタンと手から取り落としてしまった。カタンと鉛筆が喫茶店の床で跳ねた。遠くで乾さんが後で折り返ししますという声が聞こえた。
あなた
すみません、事情いいですか?
とりあえず私はその誘いの経緯を聞くことにした。そうでもしないと何が何だかわからない。そうですよねと乾さんは私に向かって丁寧にことの経緯を説明してくれた。

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