じりりりりりり、かちゃ。
鳴り始めた女っ気のない目覚まし時計を止める。
朝から最悪の夢を見てしまった。
(…なんで、今日)
私がーーーいや、オレが、家を出るきっかけになった日の夢だった。
今でも、たまにこうして夢を見てしまうのだ。
そいや、と気合を入れて起き上がり、ジャージに袖を通す。
ーーーー今日は、オレの大事な大事な、受験日だ。
ヒーローになるために。
今日から、始まるんだ。
◇
一人暮らしなので、炊事掃除洗濯は自分で済ませる。
朝ごはんを手際よく作ってしまい、
夢で出てきたような食卓をひとりで囲んだ。
『…いただきます』
個性が個性なので、一人暮らしで困ったことは一度もない。
炊きたてのご飯を咀嚼して、ゆっくりと飲み込む。
早めに起きたので、入試とはいえ少しゆっくりできそうだ。
◇
最後に、自分を戒めようと思い立った。
鏡を見ると、ブカブカのジャージにハーフパンツ。
手首にはリストバンドを巻いた、オレがいた。
どこからどう見ても、『男の子』。
もう一度、ジャージを脱いで自分を見た。
貧しいの域を超えた胸に巻いた、布。サラシ。
布に手を当てて、ゆっくりと撫でた。
…もう、後戻りはできない。
〝私〟はこれから、男として生きていくのだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。