まだ壁を作られているのか
帰ろうとする美麗ちゃん。
やだよ。このまま終わるなんて
今にも完全に俺から離れてしまいそうな彼女を
気がつけば、後ろから抱きしめていた。
美麗ちゃんは少し抵抗し始めた。
俺が名前を呼ぶとピタッと動きが止まった。
自分でも傷つく質問だとわかっていながら
そんな質問をしていた。
俺がそう聞くと彼女の肩が少し震え始めた。
え…?
俺は抱きしめていた腕を緩めながら
美麗ちゃんをこっちへ向かせると
美麗ちゃんが
涙を流していた。
くりくりの大きな瞳を伏せて
スーッとまっすぐ雫が
音をたてるように落ちていく。
くるんとしたまつ毛についた水滴が
照明に反射してキラキラしてる。
綺麗…。
こんな綺麗な泣き顔の女の人は
人生で初めて見た。
しばらく俺は
その泣き顔に見とれていたが
やっぱり俺は
美麗ちゃんの笑った顔が好きなんだよ。
いきなり抱きしめたからかな?
俺は、自分の袖口で彼女の涙を拭った。
なんで…
なんでそんなふうに切ない顔するの
そんな顔されたら、俺は…
俺はそっと、美麗ちゃんの頬に手を添えた。
美麗ちゃんの肌は
ツヤがあってスベスベで
涙で冷えたのか少し冷たかった。
まだまだうるんでる黒目の大きい瞳が
戸惑ってるかのように泳いでる。
美麗ちゃんが、ちょっと慌てて
俺を止めようとした。だけど
そんなの無理だよ。
止められるわけないじゃん。
美麗ちゃんがそんな顔するから。
だから…
まるで、何かに操られてるみたいに
体が勝手に動いて
吸い込まれるように
美麗ちゃんのおでこ(前髪)にキスをして
次に唇の距離が近いて
…いたが
もう唇が当たる寸前というところで
美麗ちゃんが俺から顔を逸らした。
その時、俺は全て我にかえった。
今、俺何しようとしてた…?
それだけ言うと美麗ちゃんは再び歩き出した。
段々遠くなっていく美麗ちゃんの後ろ姿。
俺はしばらくその場から動けなかった。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。