わたしが泣き止んでからはるくんは
こんな事を言い出した。
わたしが目を閉じていると
ゴソゴソしだして、わたしの首元に触れた。
はるくんの指と、細い金属の感触。
はるくんは満足そうにわたしを見て
「やっぱりこれやな」と笑っていた。
訳が分からないわたしの手を引いて
はるくんはわたしを寝室にある
大きな鏡の前に連れてきた。
鏡の中には
ピンクゴールドの華奢なネックレスをしている
わたしがいた。
ペンダントトップには小さなダイヤが1粒
シンプルだけど華やかな光を放っている。
わたしは自分の後ろに立つはるくんの
方へ振り返った。
はるくんが「彼女」って言った。
わたしのこと?
わたしは思わず馬鹿な事を口走ってしまった。
それとも俺、そんなに信用ないわけ〜?
と言って、はるくんが
わたしを後ろから抱きしめて
わたしの肩に顎を乗せた。
はるくんがチェーンを弄りながら
わたしの耳にキスをした。
胸がギュッとなる。
はるくんの一言で、こんなにも揺れる。
きっとこんな風にわたしを揺さぶる人は…
はるくんしかいないから…。
だから、わたしもうんと素直になろう。
沢山はるくんを愛して
わたしも沢山愛して貰おう。
わたしは体の向きをクルッと変えると
勢いよくはるくんに抱きついた。
体当たりに近い勢いではるくんに飛びついたから
二人とも態勢を崩して
そのまま後ろにある
ベッドの上に倒れ込んでしまった。
はるくんが笑う。
笑いながらわたしをぎゅって抱きしめてくれる。
もうそれだけで充分幸せだ。
わたしもはるくんをぎゅって抱きしめる。
はるくんがわたしを抱きしめたまま話し出した。
はるくんと同じことを思っていたんだ…。
そんな些細なことすら
とても大切な宝物のように感じる。
はるくんが起き上がって
ベッドに腰をかけたので
わたしも起き上がって、彼の隣に座った。
真面目な話?
はるくんの声のトーンが変わった。
前を向いていたはるくんが
わたしと向き合うように体の方向を変えると
わたしの手を優しく握って言った。
わたし…
てっきり自分ばかり、好きなんだと思ってた。
でも彼はわたしとは世界が違う
だから…迷惑かけちゃいけないって
邪魔しちゃだめだって。
そんなことばかり考えてた。
わたしは、自分で勝手に壁を作ってた…
バカだな…わたしは。
はるくんはいつだって
こうやって…
わたしと向き合ってくれていたのにね。
ほんと…バカ。
わたしははるくんを真っ直ぐに見つめて言った。
迷いなんか、ない。
はるくんはガッツポーズをして
嬉しそうにわたしに抱きついた。
一緒に住むからって、何かが変わるわけじゃない。
将来の約束も出来ないし
公的に認められるものなのかもわからない。
ただ、一緒にいる。
それだけでも、わたしは充分幸せなの。
はるくんが、わたしの壁を壊してくれた。
だったら…飛び込むしかないじゃない?
楽しいことだけじゃなくて
辛いことや苦しいことも、きっと沢山ある。
だけど、逃げたくない。
すぐに揺らいでしまう決心かもしれないけど…
わたしはこの時初めて
本当の意味で、はるくんとの恋愛に腹を括った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!