狗巻君は、あれから私によく話しかけてくれるようになった。
あの、えっち事件から。(言い方)
今日も寮から教室へ向かう途中、偶然私の事を見かけて声をかけてくれたのだろう。
ただ、いつも突然肩や腕などをつん、とつついてくるので、ちょっとだけくすぐったい。
というか変な気持ちになる。
うーーん、むずむずする
狗巻君のサラサラヘアーに、一束だけピョンとはねた寝グセを見つけてしまった。
ウッ、可愛い。ちょっと萌えた。
こういうのに弱いんですよね。
無意識に手を伸ばして、その髪に触れようとした寸前に思いとどまる。
…
私、今、もしかして、とんでもなく恥ずかしい事をしようとしたのでは、、。
狗巻君も少し目を見開いてこちらを見ていた。
そりゃびっくりしますよね私もテンパってます。カレカノでもないのに。
慌てて指をさして伝える。
すると、どういう訳か指をさした腕を狗巻君に掴まれてしまった。
びっくりして、反射的に腕を引っ込めようとした。びくともしなかったけれど。
目をぱちくりさせて動けなくなった私の手を、狗巻君は自身の頭へと導いた。
頭が真っ白になった私は、なすがままにその寝グセをつまんで髪の毛束に流す。
あ、やっぱりサラサラだ、なんて思った。
余計なことを考える余裕はあるみたいだ。
狗巻君は私からパッと手を離し、先程と変わらぬ様子で歩き出した。
…え、なんかもうちょっと恥じらいとかないんですか…??
もしかして慣れてらっしゃる?イケメンだもんね?お?お?
なんて考えていたのも束の間。
横に並んだ狗巻君の顔をチラッと見た時、偶然彼のサラサラヘアーから垣間見える耳が、
真っ赤に染まっていることに気づいた。
無論、それを見た私の顔も真っ赤になった。
慌てる狗巻君がおかしくて、思わず笑ってしまう。
最初はバツが悪そうにしていた狗巻君も、私につられたように笑いだした。
今日は朝から楽しい日だなと思った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!