無料ケータイ夢小説ならプリ小説 byGMO

第13話

【一小節目 消えた秘密のノート】-12
横目でちらりと窓際の席を見てみる。
そこには、さっきから睨むような鋭い視線を向けている女子生徒の姿があった。
彼女の名前は立花雛子。
私たち二年四組の学級委員長で、生徒会役員でもある彼女は次期生徒会長の最有力候補として名高い。成績優秀で容姿端麗。一体、前世でどれだけの徳を積めばこんなに完璧な少女に転生できるんだろう。
当然のように男子からの人気も高いのだけど、男子どころか女子でさえ、完璧主義な彼女に近づこうとする人はあまりいない。

食事の手をとめてこちらを見つめていた雛子は、私と目が合うとプイッと顔を背けてお弁当を食べはじめた。
なんだろう? そんなに音量が大きかったのかな?
彼女のことはまだあまりよく知らないけれど、私たちがボカロやアニメの話で盛り上がっているとたまにこうして冷たい視線を送ってくることがある。きっと、いわゆるオタク的な文化が嫌いなのだろう。

気を取り直して、イヤホンから聴こえてくる音に意識を集中する。
ちょうどイントロが終わり、またギター以外の楽器が姿を消した。
静寂の中で聴こえてくるボカロの歌声。

はじめてボカロ曲を聴いたときは、機械的な声がどうしても受けつけられなかった。
でも、ネット上にある数々の曲を耳にしていく中で、ボカロだからこそ表現できる自由な音楽に惹かれるようになり、次第にボカロそのものを好きになっていった。
音楽で何かを伝えたい。でも伝える術がない。
ボカロとは、そんな不器用なクリエイターたちの代弁者ともいうべき存在なのだろう。

色々なことに思いをめぐらせているうちに曲の一番が終わった。
AメロからBメロ、サビにかけてドラマチックに盛り上がっていく展開。
エモーショナルで綺麗なメロディーライン。
私の好みにぴったりの曲調だった。

うん、大好き。

大好きなんだけど……。
あれ? これって……。

うそでしょ……?
いや、そんなはずない……。
でも──……。
櫻井遥
櫻井遥
香澄……悪いんだけど、もう一回最初から聴かせてもらえる……?
恐怖に似た感情が押し寄せるのを感じながら、震える声でお願いした。
桂木香澄
桂木香澄
うん、もちろん。そんなに感動してくれて、なんか私も嬉しい!
ごめん、香澄。そうじゃないんだ……。
いや、感動はしたけど、そうじゃなくて……。

もう一度、イヤホンからイントロが流れ出す。
そして聴こえてくるボカロの歌声。
その歌詞はこうだ。

 目の前に真っ白なキャンバス
「好きな風景を描いて」って誰かが言う
 私が描いたのは緑色の空と青い色の草原

 その人は不満げに笑って
「好きな風景を描いて」ってもう一度言う
 ようやく気づいたの
 私の好きな風景じゃダメなんだと

 仕方なく青い空と緑の草原を描いた

 この手は何でも生み出せる
 この足はどこへでもいける
 そのはずだった そのはずだったのに
 誰かの顔色を見てしまうのは自分自身
 私が描きたい景色は何?

曲が終わり、そっとイヤホンを耳から外す。
私は水辺に揚げられた魚のように目を丸くして口をパクパクさせた。
言葉を忘れてしまったみたいに、何もしゃべることができない。
胸に手を当てて心を落ち着かせ、やっとの思いで香澄に問いかける。
櫻井遥
櫻井遥
こ、この曲……なんてタイトルなの……?
私が感動にうち震えていると信じて疑わない香澄は、目を輝かせて返事した。
桂木香澄
桂木香澄
〈グリーンスカイ〉って曲だよ!
ああ……なんてことだろう……。
神様、こんな仕打ちってありますか?
私は気を失って椅子から転げ落ちないようにするので精一杯だった。