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第3話

【一小節目 消えた秘密のノート】-2
高校に入学してから私の成績は右肩下がりだ。
とくにひどかったのが一年生三学期の期末テストで、理系科目はほとんどが平均点を下回ってしまった。
ここ虹ヶ丘高校は県内で有数の進学校なだけに、ちょっと油断するとすぐに置いていかれる。
決して私が怠けていたとか、勉強ができないとかではなく、周りのレベルが高すぎるだけだと言い訳しておきたい。
そんな状況を見かねた両親は、二年生からは週一回の塾通いを強制し、さらに一学期の中間テストで全教科平均点以上をとらないと、お小遣いを半分にするという無慈悲な命令を下してきたのだ。

お小遣い半分──……。
以前、ニュースで報じられていたどこかの企業の汚職事件で、不祥事を起こした社員の処分はたしか減給二十%ほどだった。誰かに迷惑をかけたわけでもない真面目な女子高生が、お小遣い五十%カットなんてあんまりだ。
そんな理不尽な命令を受け、私は死に物狂いで勉強した。大好きなテレビアニメ「スクール☆ダンサーズ」、通称スクダンの第二期を観るのも我慢して。いや、本当は息抜きにちょっとだけ観ていたけれど。
その甲斐あって、中間テストの結果はなかなかのものだった。
得意の文系科目はどれも八十点以上。苦手な理数系もなんとかギリギリ平均点以上をキープする健闘ぶり。
問題は化学。ヤマをはっていた箇所がことごとく出題されず、試験当日は煮え湯を飲まされた。
そして、結果はご覧の有り様。
平均点は六十五点。私が今抱きかかえている答案用紙の点数は六十一点。
赤ペンで線を書き加えれば六十七点にでっち上げることもできそうだけれど、さすがに思いとどまった。それをやったら人間としての大切な何かを失ってしまいそうだ。
お父さんはまだしも、お母さんは頑固なので、頑張ったことを評価して大目にみてくれる、なんてことは絶対にないだろう。
今月から私のお小遣いは月二千円になることがほぼ決定した。もうすぐ発売されるスクダンのキャラソンCDも当分買えそうにない。
櫻井遥
櫻井遥
ねえ、香澄……
桂木香澄
桂木香澄
なあに?
頭を上げると、香澄はとっくに前を向いて次の授業の準備に取りかかっている。
櫻井遥
櫻井遥
なんで大人はあんなに勉強、勉強ってうるさいのかなあ……なんで勉強しなきゃいけないの?
桂木香澄
桂木香澄
そりゃあ、良い大学に行くためじゃない
櫻井遥
櫻井遥
なんで良い大学に行くの?
桂木香澄
桂木香澄
うーん、良い企業に就職するため?
櫻井遥
櫻井遥
なんで良い企業に就職するの?
面倒くさそうに背中で返事をしていた香澄はようやくこちらを向いてくれた。
桂木香澄
桂木香澄
幸せになるため……かな?
そう言ってほほ笑む香澄の顔はなんだかすごく大人びて見えた。
いつもは一緒になってアニメや声優の話題ではしゃいでいるのに、時々こんな風に子どもを見守る親のような表情を私に向けてくることがある。
櫻井遥
櫻井遥
幸せ……?
桂木香澄
桂木香澄
そう。遥のお父さんとお母さんも、遥の幸せを思って厳しくしてるんじゃないかなあ
櫻井遥
櫻井遥
幸せ、かあ……
答案用紙の角を指でくるくる丸めながら、その言葉を嚙み締めた。
幸せって何だろう?
ぼんやりしていてよくわからないし、考えるとなんだか首筋のリンパ腺のあたりがムズムズする。