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第5話

【一小節目 消えた秘密のノート】-4
チョークの音だけが教室内に響いている。
幸せって何だろう?
黙々と板書する先生の薄くなった後頭部をぼんやりと見つめながら、さっき香澄と話したことを思い返していた。

お金があること。
愛する人がいること。
熱中できる何かがあること。
私が思う幸せの定義とはそんなところだ。

お金。半分になっちゃうけど、お小遣いはちゃんともらえている。
愛する人。最近口うるさいけど、お父さんとお母さんのことは好きだし、香澄のことも大好き。あと、スクダンの主人公のケイタ君のことも。
熱中できる何か。スクダン。

こうして考えると、今の私はきっと幸せ者なんだろう。
ただ残念なことに、幸せであり続けることは簡単ではない。強運や特別な才能の持ち主でもない限り、常に努力していなければならない。
たくさん勉強して、良い大学を出て、良い企業に就職して。
それらは先を生きる大人たちが見出した、言わば「幸せになるための定石」だ。そして、それは正しいことなんだと思う。

でも、幸せのあり方はひとつだけじゃない。私たちの目の前には無限の景色が広がっている。
本当に自分が見たい景色に向かって自分の足で歩くべきなのに、実際には大人が用意してくれた舗装された道路の上を、手を引かれながら歩いていく。
ちょっと寄り道をしようものならきつく叱られ、ただひたすらに、大人たちが見せたい景色に向かって歩いていく。

そして、いつかは必ず、つないだ手をはなす日がおとずれる。
そのとき、私はきっと途方に暮れるんだろう。
どっちに進めばいいのか、どうやって歩けばいいのか。それすらもわからずに──……。

……よし、良い感じだ。こういう感傷的な気分のときは良い作品が書ける。

カバンからこっそりと一冊のノートを取り出した。
コンビニで百円で買える、シンプルなデザインのダブルリングノート。教科名も自分の名前も書いていないこのノートは、勉強のために用意したものではない。
周りから見えないように気を配りながらそっとページを開くと、丁寧な字で整然と並べられた言葉の数々が目に飛び込んでくる。