教室を揺らすような突然の大声によって、私と香澄の人生相談トークは中断された。
声の主は隣のクラス、二年三組の風間彰人だ。
軽音楽部の部長で、自身のバンドではボーカルを担当している。とにかくいつも声が大きい。
そして背が高くて顔もそこそこ整っているので女子に大人気だ。この人が半径十メートル以内に近づけば誰もが察知するほどの圧倒的な存在感を放っている。
いつも前向きで明るくて、きっと「幸せ」という言葉は彼のような人のためにあるのだろう。
そんな風間君の子犬みたいな目に見つめられているのは、私たちと同じ二年四組の神崎君。今はじめて知ったけど、下の名前は直哉というらしい。
風間君とは対照的に、学年でも屈指の目立たない子で、休み時間は自分の席で本を読んだり音楽を聴いたりしている。
同じクラスになってから二ヶ月間、私は彼が授業以外でしゃべっているのを見たことがない。
クラス中の視線を集めた神崎君はよっぽど恥ずかしいのか、顔を赤らめて風間君に抗議している。今、はじめて授業以外でしゃべっている姿を目撃した。記念すべき瞬間だ。
そんなことより、風間君と神崎君が下の名前で呼び合う仲だということが意外すぎる。
にらみ合う二人の周りでクラスメイトのささやき声が飛び交う。
私も同じことを思っていた。
二ヶ月間、ほぼ未知の存在だった神崎君について、名前、友達、特技。ほんの一分ほどの間にこんなにたくさんの情報を仕入れることができるなんて。それにしても、ギターを弾いている姿は全然イメージできない。
そのとき、神崎君に助け舟を出すかのようにチャイムが鳴った。
そう言い残して、風間君は逃げるように教室を出ていった。慌てているときも決して笑顔を忘れない。イケメンの鑑だ。
神崎君は返事をすることなく、皆の視線をシャットアウトするように椅子に座って背中を丸めている。
その姿は石の下から無理やり日向に連れ出されたダンゴムシのよう。
ダンゴムシがエレキギターを弾く姿を想像して思わず吹き出しそうになるのをこらえていると、日本史の先生が教室に入ってきた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。