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第14話

【二小節目 歌詞ドロボーは誰だ!?】
帰り道、コンビニのベンチに座って、紙パックのトマトジュースを飲みながらスマ動のアプリを起動する。

[MIRAI]グリーンスカイ[オリジナル曲]

画面に映し出されているのは、香澄に教えてもらったボカロ曲の動画再生ページ。
空の写真を緑色の色調に加工した背景に、淡々と歌詞が表示されるだけの素朴な動画。
タイトルに添えられている「MIRAI」とは、使用したボカロのキャラクター名だ。
ボカロが世の中に登場してから現在まで、数えきれないほどのキャラクターが生み出されてきたけれど、初期のブームの火付け役となったこのMIRAIが今でも一番クリエイターたちから愛用されている。
機械的でありながら、高音域まで綺麗に響き渡る真っすぐな歌声。そして、ポニーテールの可愛らしいキャラクタービジュアルもあいまって、男女問わず若い世代を中心に人気を集めている。私がはじめて聴いたボカロ曲もMIRAIが歌ったものだった。

動画タイトルのすぐ下には投稿者のコメントが表示されている。

「はじめまして。空き缶です。」

以上。
シンプルすぎる。

他のボーカロイドプロデューサー、通称ボカロPはこのコメント欄でクスッと笑える小ネタを仕込んできたり、詩的なフレーズをのせて世界観を深めたりと、それぞれ趣向をこらすもの。
この無愛想ぶり。気のつかえなさ。間違いなくこのボカロPは根暗でモテない男子。

そして、コメント欄で作品の制作に関わった人たちの名前を表記するのも慣習になっている。
でも、そこに作詞者の名前は見当たらない。

それもそのはず。この曲の歌詞は私が書いたものだから。
一週間前の日本史の授業中、私がノートに書いた詩。
その詩を歌詞にしたボカロ曲が、なぜか今こうしてネット上に公開されている。
信じられない話。でも、これはまぎれもない事実。
放心状態で今日の午後の授業はまったく身がはいらなかったけど、ようやく事態を冷静に捉えられるようになってきた。

あの日、学校の廊下に落としたノート。
そのノートを拾った誰かが、勝手に詩を使ったということだ。

私もバカじゃない。こんな時代だから、SNSで拡散されたり某巨大掲示板に晒されたりと、ネット上で笑いのネタにされることは覚悟できていた。この情報社会においてポエムを書いたノートを落とすというのはそういうこと。
でも、まさかその詩をメロディーにのせて情緒的な音楽に仕立て上げ、不特定多数の人々が集まる場に晒されるなんて……一体誰が予想できただろう。

恥ずかしさでどこかへ消えてしまいたい気持ちだけど、それよりも今大きな問題がある。

この空き缶という名前のボカロPは無断で、しかもまるで自分が制作したかのように私が書いた詩を使っている。
そう。これは、つまり……。

盗作──……。

紙パックを持つ手に力がはいり、ストローを伝って砂糖・食塩無添加のトマトジュースが口の中に流れ込んでくる。
ずっと困惑するばかりだった心に、はじめて怒りという名の感情が湧いてきた。

これって犯罪じゃないの?
ニュースとかでよく聞く「著作権侵害」ってやつ?
私はスマホを操作して、ブラウザの検索窓にキーワードを入力した。
櫻井遥
櫻井遥
著作権 侵害……っと……
検索結果で出てきた文章を目で追う。
著作権、出版権、著作隣接権の侵害は、十年以下の懲役又は一千万円以下の罰金──……。
櫻井遥
櫻井遥
十年以下の懲役……い、一千万円!?