それからしばらくして
俺は家に帰る日が来てしまった。
その日の朝は
いつかの朝のように海岸に並んで座って
今度はカップルみたいじゃなくて…
「チルチル、今日で帰るんだよね…」
柑奈がぽつりと呟く
「ん、そーだよ。
柑奈ももーすぐ帰るんだろ?」
「…そ〜ね。」
「なに?寂し?」
「寂し…くないし?」
ぷーっとほっぺたを膨らまして
強がる姿は可愛いけど
離れたくないって思わされる。
「強がっちゃってさ〜?」
「強がってないもん」
「へ〜ぇ。俺は寂しいけど…。」
「…っ〜///」
「まぁ、予定空いたら連絡して?
そしたら俺も空けるから。」
「…。」
「ねぇ。なんか言ったらどーなの,柑奈?」
「…。」
「おーい。」
あまりにも返事がないものだから
海に向かって口を尖らせる柑奈を覗き込むと
不意に唇が触れた。
「っ……浮気しちゃだめだから。」
顔を真っ赤に染めた柑奈は
意思の強そうな目で見つめてくる。
うん。確かに意思は強そうな目なんだけど
顔が赤いせいでイマイチ気迫に欠けて
そんな姿がまた愛らしく思える。
「するわけねぇだろ、バーカ。
お前こそ、浮気すんなよ?」
「っしないわよ!」
「どーだか?」
「ちょっとは彼女を信用しなさいよ!」
「わかってるって。じゃあ…またな?」
そういってチュッと短いキスをして背を向けた。
正直、恥ずかしかったからその後顔を
見られたくなかったからな。 うん。
柑奈がどんなアホ面してるか見たかったけど
これからしばらく会えなくなるだろうし…。
あれくらい、いいよな。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!